「普通の会社ではない」。パナソニック上期は6,851億の赤字

収益を最優先。欧州携帯撤退は「仮説が間違い」


パナソニック 津賀社長

 パナソニックは31日、2012年度上期(2012年4~9月)の連結業績を発表した。売上高は前年同期比9.2%減の3兆6,381億円、営業利益は83.5%増の873億円、税引前純損失は前年の1,593億円の赤字から1,193億円悪化し、2,786億円の赤字。当期純損失は前年の1,361億円の赤字から、5,490億円悪化し、6,851億円の赤字となった。

 河井英明常務取締役は、「大幅な純損失を出したことをお詫び申しあげる。固定費の大幅な削減により、公表計画並の営業利益を達成したが、デジタルコンシューマ商品の市況悪化や新興国の景気減速の影響で売り上げが減少。想定を上回る落ち込みとなっている。また、のれん、無形資産の減損や繰延税金資産の取り崩しなどにより多額の純損失を計上した。だが、これにより、のれん、無形資産の減損や繰延税金資産の過剰感が解消する」などと総括した。


第2四半期累計第2四半期(3カ月)商品別売上高
地域別販売概況

 地域別の売上高は、国内が8%減の1兆8,782億円、米州が3%増の4,866億円、欧州が7%減の3,204億円、中国が2%減の5,146億円、アジアが11%減の4,384億円となった。

 「中国では、9月以降、日本の製品に対する不買運動があり、今後の影響を懸念している」という。なお、通期での中国リスクとして、売上高で1,000億円、営業利益で300億円を盛り込むという。

 セグメント別では、AVCネットワークスの売上高が前年同期比24%減の6,900億円、営業損失が前年同期の157億円の赤字から、199億円の黒字転換。テレビセットとテレビパネル外販の出荷台数は前年同期の965万台から、679万台に減少している。液晶テレビの売上高は前年同期比13%減の1,882億円、プラズマテレビは52%減の772億円。デジタルカメラは29%減の609億円。BDレコーダおよびプレーヤーが62%減の235億円となった。

 「BtoC製品が悪化しており、これは下期も続くことになる」としたものの、「テレビ/パネル事業の構造改革が進んでおり、販売台数が減少しても利益が出せる体質へと転換しつつある」と語った。


セグメント別実績AVCネットワークステレビ/パネル事業の構造改革が進む

 アプライアンスの売上高は2%増の8,140億円、営業利益は3%減の510億円。エアコンは売上高が7%減の1,662億円、洗濯機・乾燥機が14%増の753億円、冷蔵庫が17%増の828億円となった。

 システムコミュニケーションズは売上高が12%減の3,573億円、営業損失は前年同期のマイナス66億円の赤字からマイナス100億円の赤字に拡大。エコソリューションズは売上高が前年並の7,403億円、営業利益が4%減の186億円。オートモーティブシステムズの売上高が38%増の3,827億円、営業利益は1,111%増の87億円。デバイスの売上高が8%減の6,936億円、営業利益は前年同期の6億円の赤字から、179億円に黒字転換。エナジーは売上高が5%減の2,925億円、営業利益は前年同期の98億円の赤字から28億円の黒字に転換。その他事業では、売上高が29%減の6,983億円、営業利益が36%減の94億円となった。

 なお、2012年度の連結業績見通しは5月公表値を下方修正し、売上高で8,000億円減の7兆3,000億円、営業利益は1,200億円減の1,400億円、税引前純損失は5,250億円減のマイナス3,650億円の赤字、当期純損失は8,150億円減のマイナス7,650億円の大幅な赤字を見込む。営業利益はすべてのセグメントで下方修正している。

セグメント別年間見通し営業外損益の主な内容

■ 「いま、パナソニックは普通の会社ではない」と津賀社長

パナソニック 津賀社長

 津賀一宏社長は、都内で会見を行ない、現状の認識および今後の対応などについて説明した。津賀社長は「いま、パナソニックは普通の会社ではない。そうしたところからしっかりと自覚しなくてはならない」と厳しい口調で語り、「BU(ビジネスユニット)が変わらなければ、パナソニックは変わらないというのが私の認識である。2015年度までの新たな中期経営計画では売り上げの数字は追わず、キャッシュフローを重視し、すべてのBUで5%以上の営業利益率を目指す。危機脱却モードに徹する」と、改革に取り組んでいく姿勢を強調した。

 説明の冒頭、津賀社長は、「極めて厳しい決算を発表することとなり、 社会の皆様に対する責任の重さを痛感している」とし、「今回の大幅な業績の下振れの要因は本業の不振にある。その落ち込みの大部分を占めるのがデジタルコンシューマ関連商品であり、これらの商品は売上高全体の4分の1に過ぎないが、年間下振れ額のうち8割を占めている。薄型テレビやブルーレイの落ち込みは市場の縮小が大きく影響しているが、デジタルカメラや携帯電話などの分野では、当社の競争力の低下が原因だと考えている。とくに価格競争力の低下が大きい。この領域では負け組である」と切り出した。


パナソニックが抱える構造的な課題

 さらに、「パナソニックには構造的な課題がある」と語り、「20年前から低成長、低収益という状態が続いている。家電中心、日本中心のビジネスのままであり、さらに研究開発投資も大きな成果を生めずに、営業利益が低下し、構造改革を行なっても一時的な良化に留まり、再び利益が低下するというサイクルにある。また、デジタル化に向けて大規模な投資に踏み切っても、投資判断や環境変化に課題があり、思ったほどのリターンを生めず、環境変化への対応にも課題があった。これは普通の会社ではない状態にある」などと語った。

 そうした現状を説明しながら、津賀社長は、「デジタルコンシューマ関連事業のスリム化と構造転換」、「あらゆる手を尽くし、キャッシュフローを創出」、「新たな成長への仕掛け」という3点から説明を行なった。


今後の対応

 「デジタルコンシューマ関連事業のスリム化と構造転換」では、薄型テレビ・パネル事業において、事業のスリム化と非テレビ用途の拡大を掲げ、液晶パネルでは、チェコとマレーシアのテレビ向け液晶モジュール工場の清算や、医療分野やタブレット向けといった非テレビ比率を5割以上とする。また、PDPについても、非テレビ用途を10%以上とする。

 薄型テレビ事業では、大型シフトとパネルの外部調達を計画通りに推進。セットとパネルの年間営業利益は、前年度から1,100億円改善できるという。だが、改善幅は、当初目標には届かないという。

 一方、これまで投資したパネルやテレビで培った生産拠点やノウハウの資産活用については、「パネルは、非テレビの領域で活用していくことになる。また、ソニーと開発協業をしている有機ELパネルも、強みを維持できる限り、技術進化には投資を続けていく。その結果、どのように暮らしに役に立つのか。その出口はテレビだけではない。いつかはテレビになるかもしれないが、パナソニックは、お客様が一番求めるところに最新技術を提供するリーディングカンパニーであり続けたい。テレビの資産をBtoBに活用していくことはできる。捨てることはなく活用していく」と語った。


デジタルコンシューマの主な投資と減損デジタルコンシューマ関連商品の悪化要因薄型テレビ/パネル事業は改善
携帯電話事業

 携帯電話事業では、今年度中の欧州からの撤退を決定。国内生産からの撤退により、マレーシア、北京での生産に絞り込むことを発表。下期には当初計画に比べて約3割の国内固定費の削減が可能になるという。2013年4月には、携帯電話事業に特化した新会社を設立する予定だ。

 「携帯電話は欧州に再参入し、すぐに撤退するという点では、ご迷惑をおかけすることもある。欧州への再参入は、スマートフォンになって、グローバルに統一したスペックで製品が作れるというのが背景にあった。スマートフォンで収益を得るためには、ボリュームを追わなくてはならない。国内と海外で同じスペックで商品が作れれば、ボリュームを追えると判断し、これしか、スマートフォンの収益改善の道はないと考えていた。しかし、蓋を開けてみると、日本向け商品のスペックは、やはり日本市場固有のガラパゴススペックであり、そうしたなかでは、相乗効果が見えない。しかも、欧州市場でのスマートフォンの限界利益が非常に厳しい。こういう状況をみれば、私の判断は、ちぐはぐと言われようが撤退となる。これは再参入の仮説が間違っていた。気がついたときにはすぐに手を打つ、という当たり前のことをやっている。きちっとしたマネジメントとしての判断だ」と説明した。

 システムLSI事業においては、10月1日付で組織改編を行いAVC社のトップによるワンヘッドでの経営体制へと移行。民生用リチウムイオン電池事業では、セルの生産拠点を国内6拠点から3拠点への集約を図るなど、収益重視の事業再構築に着手。来年度には国内で2割の固定費削減を目指すという。ソーラー事業は、マレーシア工場への投資を打ち止めにするなどの構造改革に取り組む。

システムLSI事業ソーラー事業の戦略見直し民生リチウム電池事業

 「あらゆる手を尽くし、キャッシュフローを創出」という観点では、キャッシュフロー経営実践プロジェクトを2012年10月からスタート。全社で2,000億円の資金創出を目指す。また、7月からの役員報酬の削減に続き、10月からは会長および社長は40%、その他役員は20%の役員報酬返上、役員専用車の廃止、管理職の冬季賞与の35%削減を行なう。バスケットボール部、バトミントン部の休部も発表した。加えて、「戦後の混乱期を除いて実施したことはない」(津賀社長)とする年間無配も決定。「株主のみなさまにも大変申し訳ない。早期に業績を回復させ、再び安定配当を続けられるようにする」と語った。


フリーキャッシュフロー拡大を目標に全社緊急対策。バスケットボール部、バトミントン部を休部年間配当ゼロに
目標は「普通の会社」

 「新たな成長への仕掛け」としては、2013年度からスタートする3カ年の中期経営計画について説明。「いまは低収益であり、資金リスクを抱える普通ではない会社であり、この危機的状況から一刻も早く脱却することが必要。事業の基本単位であるBUがお客様に向き合い、価値創出力を再生することが重要。2015年度には、お客様価値を生む集合体に生まれ変わり、普通の会社に戻りたいと考えている」と述べた。

 さらに、「普通の会社に戻るという目標は志が低いと感じるかもしれないが、このステップを踏まない限り、何を言っても絵空事になる。それだけパナソニックは傷んでいる」などと語った。


新中期計画の数値目標

 2015年度を最終年度とする中期経営計画の詳細は、来年発表されるとになるが、津賀社長は、「売上成長を指標として追求することはない」とし、「毎年度、フリーキャッシュフローを2,000億円創出すること、営業利益率5%以上を最低基準としてすべてのBUを見直していくことの2点を追求する」と指標を位置づけた。

 また、非デジタルコンシューマに向けた新たな成長の仕掛けにも取り組むとし、「アプライアンス」、「エコソリューションズ」、「AVCネットワークス&システムズ」、「オートモーティブ&インダストリアル」の4つのカンパニーに再編。この体制を2013年4月からスタートする。

 「これは中期計画の策定に先立ち、全社BU長クラスを集めたワーキンググループなどによって向かうべき方向や伸びシロを議論した結果まとめた体制。現在、88のBUを、56に再編し、BUの進化を加速させる」と語った。

 加えて、「顧客軸」、「地域軸」、「商品軸」を掛け合わせることで、注力すべき領域を見出していくという考え方も導入する。

 「よい商品さえ作れば儲かる時代ではない。お客様が価値を見出してくれる商品をつくることであり、お客様を正しく理解し、適切な出口を見出すことが必要」などとした。

非デジタルコンシューマーで4領域を強化4カンパニー制を導入価値創出力を再生

 説明の最後に、「今回の決算でリスク資産を一気に切り崩し、2年連続の大幅な赤字に陥ること、無配となることは経営者としては身を切られるような思い。そして、2012年1月から新体制をスタートしたにも関わらず、新たな4カンパニー制を導入することは混乱を招く。たが、ちぐはぐに見えても、状況の変化に目をつぶらない。苦しくてもやるべきことがあれば、すぐにやらなくてはならない。もっとスピードをあげなくてはならないと強く思っている。BUが力を発揮することで、それを原動力にパナソニックの復活を果たしていきたい」と、今回発表した取り組みに理解を求めた。

 津賀社長は、「昨年は震災影響や洪水影響があったが、明確な課題がないなかで『売り』が見通せない。これはパナソニックが、収益優先で事業をやっているためである。価格が下落したコモディティの世界では、『売り』を追うと、収益が悪化する。パナソニックは、明確に収益を優先する方針に転換した。それが『売り』が伸ばせない明確な理由。そういう姿が見えた以上、ここで減損を行なった」とし、「この本質は、企業体質そのものにある。パナソニックは、これまで『売り』によって、成長を目指してきた会社である。『売り』が成長すれば、収益が作れるというのが、過去の企業の基本的な価値観。しかし、コモディティの領域においては、『売り』が伸びても収益は伸びない。価値観を大きく変えなくてはならない状況に至ったというのが本質的な理解である」と語り、「テレビは『顔』であったのは事実である。お客様がテレビが『顔』と思っていただける時期には、それでもいい。過去は間違っていなかった。しかし、それを押しつけるのはどうか。また、いまもテレビが『顔』に見えるのだろうか。テレビが買いたいものの一番ではない地域も多いはずだ。米国でプラズマテレビを買った人が、ガレージか、プールサイドに置くといった。これは『顔』ではない。コンシューマの価値感、地域の成熟度が変わっていく。では日本ではどうするのか。日本のリビングには、テレビがあり、照明があり、エアコンがある。生活空間において、よりよい暮らしを提案するには、全体をどうデザインするのか、テレビにはどんなサービスが必要かということに置き換わっていくことになる」など語った。


(2012年 10月 31日)

[Reported by 大河原 克行]