シャープ、鴻海の出資交渉決裂も想定。「SDPは成功」

年度内に中期計画策定。IGZOのロードマップも


10月末に教育関連企業への売却が決定した市ヶ谷ビル。まだSHARPのロゴが掲示されている

 鴻海グループからの出資が遅れ、それが経営再建の課題になっているシャープだが、同社幹部が明らかにしたところによると、「今後発表する中期経営計画のなかで、基本的には、自力での調達シナリオを描いている。一般公募でやることも考えている」などとし、鴻海との交渉が決裂した際のプランを前提に描いていることを示した。

 また、インテルやクアルコムなど、鴻海グループ以外との資本提携の可能性については、「決定事項については発表するが、現状はない」などとした。

 「鴻海グループと交渉が進んでいない理由は、2012年3月27日に、株価550円で契約したが、当社の株価が下落し、台湾当局の許可が下りないため、ディールがクローズせず、条件を再交渉しているため。業績の回復を明確にし、株価の上昇を図ることで、交渉が進展すると考えている」、「出資する側にすれば、株主に対する責任もあるだろう。両社の協業の取り組みを強化するとともに、自助努力により2012年度下期の営業黒字化に向けた施策を進めることで、当社の株価が安定すれば、台湾当局の停止条件の解除につながる進展も期待できる。当社株価の低迷により、出資時期が不安視されているが、協業については変わっていない」などとし、「鴻海グループとは、奥田(=奥田隆司社長)が、本件に限らず、交渉を定期的に行なっている。直接会わなくても、意見交換はしている」という。

 鴻海グループへの液晶モジュール工場の売却が遅れていることについても、「モジュール工場については、協業の次のステップとして、売却を含めて協議しているものであり、売却により、当社の資金が安定するという側面もある。ただし、これは本体への出資とは別の話であり、これと出資はパッケージではない」などとした。

 鴻海グループとの出資に関する契約交渉の期限は、2013年3月までとなっている。同社幹部は、「期限以降については、その時の状況に応じて交渉を継続していくことになる」など、継続的に話し合いを進める姿勢をみせたが、交渉は厳しい状況にあるのは事実だといえよう。

 その一方で、鴻海グループとの協業については、「協業の第一ステップにおいて、パネル事業で取り組み成果が表れつつある」と自信をみせ、「SDPの協業は成功した。当社は、手元にパネル在庫が残っていたのでSDPへの発注が少なかったが、これが解消されれば、さらに稼働率が高まる」と説明した。

IGZO液晶パネルの出荷が本格化するのは2013年度上期

 同社幹部が言及した中期経営計画は、第3四半期決算発表までのタイミングで、実施時期を決定するとしており、年度内にも、2013年度を中心とした3カ年計画の発表を検討しているという。ここでは、次期IGZOをはじめとする技術革新を織り込んだロードマップを公開するとともに、サブビジネスユニットレベルまで事業ロードマップを精査し、数字目標を決定。これを反映したものになるという。

 また、「IGZO液晶パネルの出荷が本格化するのは2013年度上期であり、米国市場の新学期需要におけるWindows 8搭載ノートPCの販売拡大に期待している。主たるパソコンメーカーに提案しており、日本のパソコンメーカーにも当然アプローチしている」とコメント。「静止画を表示する際の消費電力が少なくなるだけでなく、タッチパネルの性能が向上するなど、飛躍的にディスプレイ機能が向上する」と強調した。

 IGZO液晶の主力工場のひとつとなる亀山第2工場では、ゲーム機向けやテレビ向けにも生産しているが、「2012年度下期に稼働率が50%以上になるとは考えていない」とした。

 今年度は、アップル向けのタブレット用、スマートフォン用以外は、生産計画には盛り込んでいない模様だ。

 一方、シャープの経営再建に向けた取り組みは少しずつ進展しているようである。

 同社幹部によると、営業利益ベースでは、2012年度第3四半期には赤字が残るが、第4四半期には黒字を計画。さらに、2013年度上期全体でキャッシュフローをプラスにすることで、手元資金を1,600億円から2,500億円まで改善する姿勢を示した。

都内の拠点を集約した東京・芝浦のシーバンスS館(右奥の建物)

 すでに東京・市ヶ谷の市ヶ谷ビルを教育関連企業に10月末に売却が完了。都内に分散していた拠点を、東京・芝浦のシーバンスS館に集約している。さらに、下期中に海外拠点の売却を完了させる予定を明らかにした。

 また、11月1日から募集した希望退職では、11月14日までの締め切り期限前の11月9日に、2,000人の募集定員をオーバー。2,960人に達したことで募集を打ち切ったことにも触れ、「社員には、再就職のケアも含め、審議の上で退職者を正式に決定する」などとした。

 希望退職は、2012年12月15日時点で満年齢40歳以上59歳以下が対象で、性別や事業所、事業本部別、管理職、組合員別などの設定はない。希望退職者の退職日の12月15日となる。

 また、同社幹部によると、2013年9月のCB(Convertible Bond=転換社債型新株予約権付社債)償還までに、3,600億円の融資目処が立ったとし、「金融機関に18カ月の計画を提出し、これを、リスクを織り込んだ上で外部機関が検証した結果、銀行に3,600億円を設定してもらった。3,600億円のシンジケートローンは、CP(Commercial Paper=短期無担保約束手形)の切り替えにあてている。有利子負債の残高は9月末の1兆2,000億円がピークで、以前からの短期借入金の借り換えは継続できている。CP残高は今期中にほぼゼロになる見込みである」などとした。

 ムーディーズやS&Pなどの格付け会社による格下げの影響で、「CPによる資金調達はすでに困難な状況にある」としたものの、「銀行は行内格付に基づいて融資の是非を判断しており、当社の財務状況を確認した上で今回の融資を決めた。現状の融資態度が変更されるとは考えていない」とした。

 また、経営改善対策を実施するなかで、「さらなる資産圧縮と投資圧縮を実施し、下期も引き続きキャッシュフローを創出していく」とする一方、「収益下ぶれリスクについてはコンティンジェンシープラン(不測の事態を想定した計画)を別に策定している」としている。

 なお、一部報道にあった中国電子との工場建設については、「第10世代の工場に関する報道内容については、当社は関知していない。第6世代のラインを売却したが、それ以降の共同生産は計画がない」などとした。また、公的資金注入の報道についても、「そうした事実はない」と否定している。


(2012年 11月 26日)

[Reported by 大河原 克行]