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スカパーが4K映像ライブ伝送実験。映画館で体験した

Jリーグを高画質で劇場観戦。4K放送実現に向けた課題も

4K上映されたお台場シネマメディアージュ

 スカパーJSATは9日、4K高解像度の放送実現に向けた取り組みとして、サッカーJリーグの試合を、衛星経由で映画館のスクリーンへライブ伝送する実証実験を行なった。報道関係者や機器メーカー、放送関係者らを招いて、パブリックビューイング形式で上映した。

 中継された試合は、東京・調布市の味の素スタジアムで行なわれたJ1リーグのFC東京vs柏レイソル。会場の中継車から、JCSAT-5A衛星を介して、東京・台場の映画館「お台場シネマメディアージュ」へ送信。劇場で、ソニー製4K対応SXRDプロジェクタ「SRX-T420」を使って、400型のスクリーンに上映した。

 映像は3,840×2,160ドット/59.94p(60p)でフルHDの4倍、コーデックはMPEG-4 AVC/H.264、音声は5.1ch。伝送時はフルHD映像を4画面に分割して4本のストリームを多重化して1波で送受信している。これは、既存のHD中継車/機材を活用するためのもので、新たに4K専用システムを開発/導入するのはどの局にとっても負担が大きいことを考慮している。回線の容量は最大120Mbps。MPEG-4 AVC/H.264のエンコーダ/デコーダは富士通製。

 カメラはキヤノン「EOS C500」を4台と、ソニー「PMW-F55」を1台、アストロデザインの「AH-4413」1台に加え、朋栄のスローカメラ「FT-ONE」を1台使用して360fpsで撮影。スロー/ハイライト映像用に、8K対応のアストロ製SSDレコーダ「SR-8422」も用意。テロップも4K対応のものを使用している。中継車はHD用のものを映像に1台、音声に1台使っている。

シネマメディアージュがあるアクアシティお台場
普段は映画が上映されているシアターを使って、パブリックビューイング上映
実験のシステム概要
撮影/送信側の機材
伝送方式やフォーマットなど
試合会場に用意された中継車(共同テレビKR-Advance)。緑が映像、青色が音声用

圧倒的な解像感。試合の見方も変わる?

使用されたカメラのEOS C500

 快晴となった9日の味の素スタジアムで、前節をそれぞれ勝利で終えていたFC東京と柏レイソルの試合が14時より始まった。

 カメラは、味スタの最上階・中央に設置されたC500(レンズはEFシネマレンズのCN-E30-300)をメインとし、ピッチにはゴール裏のPMW-F55など3台、F55とは反対側にあるゴール裏の客席にはC500がフィールドを縦方向から撮影した。

 実験では、4Kの解像感などが分かりやすいように、一般的な中継よりもカメラをやや引いた、広い画角を中心とした撮影方法を採用。フィールド全体を広くとらえながらも、個々の選手の細かな動作や、ぶつかったときの激しさも、テレビ中継に比べて良く伝わってくる。寄りのシーンは少ないながらも、選手の表情やちょっとしたしぐさなども分かりやすい。

写真の右側にメインのC500が設置されている
F55があるゴール裏側
スローカメラのFT-ONE

 試合は、FC東京がMF米本らを中心に徐々にボールの支配率を高め、前半6分には、FW渡邉が左足でゴール。柏レイソルのレアンドロ・ドミンゲスらの攻撃に対しても東京は中盤で着実に対応、なかなか最終ラインを崩させないという展開が続いた。24分には、相手のミスをきっかけに再び東京・渡邉が2点目のゴールを上げた。後半に入ると、柏も選手交代などで積極的に仕掛けるが、東京は安定した守備を続け、逆に33分にはMF長谷川がゴール、試合を決定付けた。

 今回の4K中継で解説を務めた元日本代表の城彰二氏も、解説席のモニタで映像を確認しつつ、ピッチの芝の状態など細かい点が選手の動きを左右することなどを解説し、「今まで見えない部分もよく見える。選手はサボっていても後で見つかってしまいますね(笑)」とした。サッカーではボールのない場所での選手の動きも重要だが、城氏が指摘した通り、FC東京のディフェンスラインが最後まで集中力を切らさずに堅い守りを続けていた様子も映像で見て取れた。

試合の模様。スクリーンからはやや遠い場所からのため写真では伝わりづらいが、選手一人一人の表情もしっかり伝わるシャープな映像が印象的だった

実験で見えてきた課題も

スカパーJSATの高田真治社長

 今回の4K伝送実験は2回目で、1回目は2012年10月に同じくJリーグの試合で行なわれていた。スカパーJSATの高田真治社長は、「前回は大きな反響をいただいた。前回はカメラが5台だったが、今回はスーパースローを含め7台となり、中継のクオリティにもこだわった。今後、我が国のテレビ産業が発展するなかで、4K8Kの取り組みは大切」と述べ、今回の実験に協力した関係者らに感謝の意を表した。

 既報の通り、総務省は「放送サービスの高度化に関する検討会」において、解像度8K/7,680×4,320ドットのスーパーハイビジョン放送を、2020年に導入することを目標とすることでおおむね合意。2014年のブラジル リオのサッカーワールドカップを目処に、4K放送の環境整備を進めていくなど、早期の実現に向けた話し合いが行なわれている。

スカパーJSATの今井豊氏

 スカパーJSATのプラットフォームサービス部 サービス開発担当主幹 今井豊氏によれば、「前回は、(HD映像4つ)全部をつなげて出すので精いっぱいだった。レンズをどこまで絞ったら解像感が落ちないかなど、基本的なことしかやっていない。演出などの余裕はなかった。今回は、通常のHD機材と8K機材を混在させるときにどうか、といったことも試した」とのこと。また、「前回は、ハイライトやスロー映像は1回か2回入れただけだった。CGも、4KのCGジェネレータを使って一発で出た」とし、実験ながらも“実際の中継”に近づけたことを強調した。

 伝送ビットレートを120Mbpsとした理由や、実際の放送に向けたビットレートの想定などについては、「AVCの120Mbpsで実際の放送はできないので、このビットレートは、劇場配信などのビジネスで考えている。放送だと、我々の場合はトランスポンダ1個のビットレートでどこまでの4Kの放送ができるかということを決めていかなければいけない。コーデックはHEVCあたりが有力だと思っている」とし、今後も実験を重ねつつ、メーカーらの意見も取り入れていく方針。

 今回の上映に出席したメーカーや放送関係者らからは、「F55からの映像の解像度が悪い」、「(FT-ONEからのスーパースロー映像は)可変スローでなかったので、スポーツ中継としては間延びした感じがする」といった現場視点からの厳しい指摘も出たが、今井氏は「F55にはフジノンのENG用4Kレンズを使っており、『CINE SUPER』などのレンズと比べるとクオリティは落ちる。しかし、スイッチングしてこのサイズでどう見えるかを誰も経験していない。30-300mmも1本余っていたが、敢えてその(ENG)レンズを使った。FT-ONEを使ったのはまだ1回目で、細かくは検討できていなかった。ただ、FT-ONEからの出力を受けられるというのは今回分かった。今後、いろんな条件のなかで、どこまで耐えられるかという知見を得ようというのが、FT-ONEを入れた主旨」と説明した。

 その他にも、今井氏は4K撮影で得た課題として「どれだけフォーカスが合っているかがキーになる」と指摘。実験の前に、ロケ撮影した河津桜の映像が会場で上映されたが、そのロケでは30カット以上撮ったにも関わらず、フォーカスが合っていたのは8カットほどだったという。「4Kで観た画質、輪郭感、F特などはHDとは全く違う。ファインダーで見ていると、小さくしたときにだんだんボケたところが無くなってしまう。このため、ハイビジョンのモニタでダウンサンプリングして見ていると、適当にやっていてもピントが合ったように見えてしまう。既にフォーカスアシスト機能を持つカメラもあるが、カメラマンは、波形を見ながら選手を追えない。今日は、メーカーの方もいらっしゃっているが、何らかのいいフォーカスアシスト機能が欲しい」と述べた。

 また、クロマフォーマットについては「今日の放送は“4Kっぽく”見せるため、(カメラを)引いたときにサポーターのユニフォーム(柏:黄色、東京:赤と青)がいっぱい映ると、実際の放送で使われる4:2:0だとキレが悪いと思ったので、4:2:2で送っている。これは実放送だと4:2:0にしなければならない」という点も指摘した。

 今井氏は「前回(の実証実験で)思ったのは、力業で4Kはある程度できるということ。ライブならできるが、編集となると時間とデータ量を食い、コストがかかる。今のインターフェイスでは転送時間がかかるといった問題もある。番組が作れるか、と言われれば、今とほぼ近いものは作れる。あとは、どういうレベルでやれるかということだ」とした。

上映された河津桜の映像。カメラはC500、レンズはCN-E30-300などを使用

(中林暁)