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Shure、ポータブルなコンデンサ型イヤフォン「KSE1500」発表。実売36万円

 シュア・ジャパン(Shure)は22日、「世界初の高遮音性コンデンサ型イヤフォン」として、「KSE1500」を発表した。同社が「最も革新的なイヤフォンシステム」とする製品で、専用設計のアンプ兼USB DACと、それでドライブするイヤフォンがセットになっている。2015年12月末~2016年1月頃に発売予定。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は36万円前後。ハイレゾ再生にも対応する。

コンデンサ型イヤフォン「KSE1500」

 また、USB DAC搭載アンプ部のみを抜き出し、コンデンサ型以外のイヤフォンをドライブできるポータブルアンプ「SHA900」も11月中旬に発売予定。店頭予想価格は12万円前後。こちらは別記事で紹介している。

 既発売のイヤフォン「SE846」の新色、ブルー、ブラック、ブラウンも発表された。11月中旬発売で、価格は既存のクリアタイプと同じ。音質なども変更は無い。店頭予想価格は108,900円前後。こちらも詳細は別記事を参照のこと。

SHA900
KSE1500

KSE1500

 コンデンサ型のシングルドライバを搭載したイヤフォンと、専用アンプで構成する。

コンデンサ型イヤフォン部分

 イヤフォンは、シングルMicroDriverを搭載。遮音性の高いカナル型イヤフォンに、コンデンサ技術を適用した初のモデルという。「ほぼ無質量」というほど軽量な振動板を搭載しており、「極めて精確なオーディオ再現と高速な過渡特性により、従来のダイナミック型またはバランスドアーマチュア型ドライバよりも幅広い周波数レンジを提供する」という。再生周波数帯域は10Hz~50kHzで、最大音圧レベルは113dB。ケーブル長は140cm。

イヤフォン部の内部構造

 アンプにはUSB DAC/ADCも搭載しており、96kHz/24bitのハイレゾ音声にも対応。専用の充電池、専用DSPを搭載し、4バンドのイコライザも使用できる。有機LEDのカラーディスプレイも搭載した。PC、Mac、iOS、AndroidとUSB接続して利用できる。DACチップはシーラス・ロジックの「CS4272」を採用している。

 また、アナログのライン入力も備えているため、USB DACを使わず音楽を聴く事もできる。DSPをバイパスする事も可能。

USB DAC搭載アンプ部の内部

 KSE1500のイヤフォンシステム専用設計のアンプとなり、6ピンのLEMO端子とシングルドライバーコンデンサ型イヤフォン専用にカスタマイズした電気回路を搭載。バッテリも最適なものを搭載しており、駆動時間はUSB接続時で最大7時間、アナログ接続時で最大10時間。

USB DACアンプ部。LEMO端子でイヤフォンと接続する
左上のダイヤルがボリューム
底面。USB入力と、入力切り替えスイッチを備えている

 4バンドのイコライザも搭載し、ユーザーがカスタマイズした設定を4個まで保存する事も可能。アンプとDACに様々な機能を追加すると、干渉によりノイズが発生するが、基板を10層のPCBにする事で、ノイズ源や干渉源の分離、高電圧と低電圧部の隔離などを実現。ノイズを低減したとする。S/N比は最大107dB。

 iOS機器向けのUSB-Lightningケーブルや、Android端末向けのOTGケーブル、ステレオミニケーブル、標準プラグ変換アダプタ、アッテネータ、クリーニングクロス、電源アダプタ、イヤパッド、レザーキャリングケース、イヤフォンキャリングケースなどが付属する。

付属のケーブルやイヤーピース類

なぜコンデンサ型を採用したのか

 Shureは2013年に、バランスドアーマチュア(BA)ユニットを4基搭載した「SE846」を発売している。その開発と並行して、BAにとらわれず、違った方向からのアプローチで高音質なイヤフォンを開発するための研究は継続して進められていたという。

 KSE1500開発のキッカケは、2007年。イヤフォン/ヘッドフォンのプロダクトマネージャーであるショーン・サリバン氏の元に、Shureのエンジニアが1つの試作機を持ち込んだ事。Shureはコンデンサ型マイクも手掛けているが、そのエンジニアは小型マイクを通常とは逆に動作させ、音を集音するのではなく、音を出す小型のコンデンサ型イヤフォンを試作した。

 試作機の形状は洗練されておらず、ケーブルなどのむき出しの状態、壊れやすく、さらにドライブするには専用アンプが必要となるコンデンサ型と、「(製品化するのであれば)やらなければならない事が沢山ある」ものだったが、「そのサウンドクオリティはとても無視できなかった」という。

 そこで、本格的に開発がスタート。「ほぼ無質量」というほど軽量なコンデンサ型の振動板を開発したが、それを2つの固定極版の間に設置し、振動させる際に、スペースが0.002インチしかなく、パーツや組み付けに非常に高い精度が求められ、極板にかける200Vの電圧も、2つの極板にキチンと同じようにかけなければ振動板の動きがアンバランスで不自然なものになってしまうなど、苦労の連続だったという。

中央が最初の試作機
アンプの試作機
大きな円が通常のコンデンサ型ユニット、その右にある小さな円が今回のイヤフォンに搭載されたもの

 サリバン氏は、振動板まわりのスペースが「あまりにも小さくなる事が、コンデンサ型イヤフォンを小さくする事が難しいと市場で信じられていた理由ではないか?」と分析。その上で、「Shureには90年の歴史がある。こうした困難を克服するための技術や経験を備えており、“我々であれば実現できるのではないか”と信じた」という。

 最終的に開発したユニットは、マルチウェイのBAと比べても過渡特性に優れ、明瞭度やディテールの再現性が高いものになったという。ショーン氏はその利点を、「通常の振動板がボーリングのボールだとすると、コンデンサ型はピンポンのボール。手でつかんで動かす際、ボーリングのボールは大変だが、ピンボールは軽いので動かしやすい」と例えた。

マルチウェイBAとの過渡特性比較グラフ

 駆動するアンプの開発も難航。バッテリ駆動の難しさに加え、開発期間中がスマートフォンの普及・発展と重なっていたため、「様々機器と簡単に接続し使ってもらえる製品にするためにはどのようなスペックを備えるべきかを決めるのも難しかった」という。

 なお、USB DAC機能としては192kHz/24bitやDSDに対応していない点が気になるが、サリバン氏と、カテゴリーディレクターのマット・エングストローム氏は、「iPhoneのiTunesで再生できるのは48kHz/24bitまで。その他のスマートフォンのアプリでも、手軽に再生できるのは96kHz/24bit程度までであり、この製品に関してはそれをクリアしたスペックで十分だと考えている。192kHzまで対応しようとすると、パーツなど多くの部分を見直す必要がある。また、内部で192kHzで処理をすると、バッテリの持続時間も短くなる。そうした環境や状況を考慮した上でのスペック」だという。

左からショーン・サリバン氏、マット・エングストローム氏

 最初の試作機から、約8年をかけて製品化を実現。エングストローム氏は、「Shureに入社して17年になるが、開発期間が最も長かった製品。特許も申請し、開発から数年間は本社の中でも限られた人しか開発している事を知らない極秘プロジェクトだった」と、熱意と時間をたっぷりとかけた製品である事をアピールした。

音を聴いてみる

 発表会場において、ハイレゾポータブルプレーヤーのAK380とのアナログ接続や、Androidスマートフォン「Xperia Z1」とのUSBデジタル接続などで音をチェックした。

 方式はコンデンサ型だが、イヤフォン部の形状はこれまでのSEシリーズとよく似ており、装着時のハウジングの収まりや安定感は良好だ。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」の「Best OF My Love」(96kHz/24bit)を再生し、アコースティックベースの量感ある低音が出てくると、コンデンサ型らしさがよくわかる。「グォーン」と豊かな量感がありながら、音が非常に細かく、トランジェントが良く、弦の動きなどが明瞭に聴きとれる。ダイナミック型やBA型のイヤフォンでは難しい描写だが、この繊細さや分解能の高さが最大の持ち味と言えるだろう。最近試聴した中では、AKとbeyerdynamicがコラボした、テスラテクノロジー採用イヤフォン「AK T8iE」と少し似たものを感じた。

 低域は高分解能でありながら、前述の通り量感も豊かで、ダイナミック型のようなゆったり感も併せ持っている。コンデンサ型の“全体的に線が細い音”というイメージに完全には当てはまらず、ロックなども楽しく聴けそうだ。

 中高域も抜けが良く、付帯音は感じられず、低域と同様に細かな描写が良く分かる。トランジェントが良いため、軽やかで、歯切れの良いサウンドが印象的な製品だ。

(山崎健太郎)