【レビュー】FLAC/DSD対応のAndroid再生機「iBasso HDP-R10」を聴く

-外部アンプ不要な高音質。プレーヤーアプリには難点も


 2011年12月に開発が表明されたものの、一度延期され、いよいよ8月30日から発売となるiBasso Audioの音楽プレーヤー「HDP-R10」。Androidベースのプレーヤーだが、注目は最高24bit/192kHzまでのハイレゾ音源や、FLAC/Apple Lossless/DSDなどの様々なファイルも再生でき、高音質なDAC/ヘッドフォンアンプも搭載している事。発売前に試用できたため、さっそくサウンドを体験してみたい。

 価格はオープンプライスで、店頭予想価格は88,000円前後と、現在のポータブルプレーヤー市場から考えるとかなり高価だ。しかし、64GBのメモリを内蔵したAndroidプレーヤーと、高級なDAC内蔵ヘッドフォンアンプをデジタル接続し、1つの筐体に収めたような製品となっているため、他の音楽プレーヤーと単純に比較するのは難しいだろう。

 例えば、8月下旬現在、64GBのiPod touchは3万円程度、Android OS採用のウォークマンZシリーズ64GBは37,000円程度で販売されている。また、フォステクスのiPodデジタル接続対応DAC内蔵ポータブルアンプ「HP-P1」は68,250円。これらの組み合わせと比較したくなるような製品だ。




■多彩な対応フォーマット+32bit DAC+ヘッドフォンアンプ

 概要をおさらいしよう。基本はAndroid 2.3.1をベースとしたオーディオプレーヤーだが、独自の再生アプリ「HD Music Player」をプリインストールしている。このソフトは、再生対応形式が豊富で、FLAC、DSD(DSF)、ALAC(Apple Lossless)、AIFF、AAC、WAV、WMA、OGG、APE、MP3をサポートしている。

 さらに、最大24bit/192kHzまでのハイレゾファイルも再生できる。DSDファイルは24bit/88.2kHzにリアルタイム変換しながら再生するとのこと。ポータブルプレーヤーとしてはかなり幅広いフォーマットに対応した製品で、ライブラリをFLACやALACで構築しているという人には嬉しい仕様だろう。

 また、単純にAndroid OSから音を出すのではなく、再生時にはAndroid AudioSystem内でゲイン調整をせずに再生する「Direct Streaming」再生方式を採用している。情報量を逃さず再生できるというふれこみだ。

 さらに、プロセッサからはI2S接続でDACへと接続。音楽信号と同期信号を別々に伝送することで、微細な信号も正確に伝送するというこだわりよう。再生時はアップサンプリングして再生する事も可能で、アップサンプリングした信号をデジタル出力やヘッドフォン出力、ライン出力から出力できる。

 DACはカナダESS Technologyの32bit DAC「SABRE32 Reference audio DAC ES9018」を搭載。I/V変換には、TI製の低歪みオペアンプをLR独立して搭載。ヘッドフォンアンプ部には、TIのオペアンプ「OPA627」と、高速バッファ「BUF634」をLR独立して搭載している。

 なお、注意したい点として、PCと接続し、PCの音を出すUSB DAC機能は備えていない。また、デジタル入力も無いので単体DACとしても使えない。これはフォステクスの「HP-P1」と同じだ。

「HDP-R10」のケース。高級感ある化粧箱で、下段にマニュアルやケーブルが入っている


■各部をチェック。分厚いけれど1台で完結するのが魅力

 各部を見てみよう。高級感ある化粧箱を開け、手にした第一印象は「分厚い」の一言。縦と横サイズはiPhone 4Sより一回り大きい程度だが、厚さは2倍以上。「ポータブル機器」と言えるギリギリのサイズだろう。具体的には71.8×118×27.5mm(幅×奥行き×高さ)で、重量は260g。似たサイズの製品を探すと、フォステクスのアンプ「HP-P1」が75×130×25mm(同)、重量が260gで近い。若干P1の方が幅と奥行きがあるものの、並べてみるとあまり違いは感じない。

底面にヘッドフォン端子などを備えている上部にはライン出力やUSB端子など背面はブラシ仕上げ
フォステクスのアンプ「HP-P1」

 どちらもポータブル製品としては大型だが、HP-P1は当然ながら、この上にiPhoneやiPod touchなどのプレーヤーを重ねて使うわけで、対するR10はこれ1台で完結しているシンプルさが光る。ゴムバンドがタッチパネルを横切ったりもしないため、端末としての操作性も損なわれない。普段プレーヤーとポータブルアンプを持ち歩いている人からすれば、こうした点は魅力的だろう。幅がHP-P1よりも狭いため、ワイシャツの胸ポケットにも入る。

 R10の筺体はマグネシウム合金とアルミニウム合金、樹脂による複合筺体だが、裏面の金属部分(ブラシ仕上げ)が多く手に触れるため、質感は高い。

 左側面に電源ボタン、右側面にボリューム増減、microSDカードスロットを装備。microSDは32GBまで利用可能。底面に標準プラグのヘッドフォン出力、ステレオミニのイヤフォン出力、ステレオミニのラインアウト、ゲイン切替スイッチを用意。上部にはACアダプタ接続端子と、マイクロUSB端子、ミニ端子の光デジタル、同軸デジタル出力を備えている。


左側面に電源ボタン右側面にmicroSDカードワイシャツの胸ポケットにもなんとか収まるが、他にはもう何も入る隙間は無さそう

 楽曲の転送は、PCと接続し、エクスプローラーなどから例えば「MUSIC」フォルダなどにファイルを転送するだけ。PC向けの転送・管理ソフトなどは用意されていない。なお、各アルバムのデータフォルダ内に「Cover.jpg」という画像ファイルを入れておくと、アルバムアートとして認識され、プレーヤー上で表示される。

 本体の電源ボタンを押してから、プレーヤーの画面が表示されるまでは約25秒。だが、起動して数秒するとライブラリをスキャンしているという画面が表示される(その間は操作不能)。内蔵メモリに約30GB分の音楽ファイルを保存した状態で、スキャンには約5秒ほどかかった。起動は早いとは言えないが、頻繁に電源をOFFにする機械でもないのでそれほど気にならないだろう。電源ボタンを短く押せば、画面表示を消して電力消費を抑えられる。再び電源ボタンを短く押し、画面を復帰させるまでの時間は、一般的なAndroid端末と同様に一瞬だ。

 ディスプレイサイズは3.75型。接続するヘッドホンインピーダンスは8~600Ω推奨。なお、試用機のAndroidバージョンは2.3.1、カーネルバージョンは2.6.32.27、ビルド番号はV8.0.0だった。


 

■操作性は今後のバージョンアップに期待

 起動すると、「HD Music Player」のアプリが表示されている。これは「HD Music Player」のウィジェットのようなもので、選曲や再生操作などの基本的な機能を集めたもの。再生時の設定など、細かい操作もしたい場合は、画面を横にスライドすると見慣れたAndroidのアイコンが並び、その中に「HD Music Player」というアイコンもある。これをタップすれば、音楽が途切れず、そのままフル機能のアプリ画面に切り替わる。

起動した直後の画面。「HD Music Player」のウィジェットが表示されている横にスライドするとAndroidのホーム画面が「HD Music Player」を立ち上げた画面。ウィジェットの画面と比べて少しレイアウトとボタン数が異なる

 操作方法は、左上に音楽検索用のアイコンがあり、タップすると「アルバム」、「アーティスト」、「ジャンル」、「プレイリスト」、「お気に入り」、「全ての音楽」、「フォルダ」、「検索」の機能アイコンが並ぶ。それらをタップすると、下部に縦方向に音楽ファイルやアルバム、アーティスト名がズラーっと並ぶレイアウト。

アーティスト表示画面フォルダを直接表示させる事も可能だ

 全体的な操作感としては、多数の楽曲を上下スクロールする時に、ちょっと引っかかりを感じたり、タッチパネルの認識が甘く、押したつもりが認識されていなかったという事がたびたび。ただ、操作できなくてイライラするという程でもない。iPhoneやウォークマンの気持ちいいUIに慣れていると、落差は感じるが、「使えない事はない」レベルだ。

 他の製品と比べて気になるのは、楽曲を選択してから音が出るまで時間がかかること。3~4秒程度のものなのだが、iPhoneなどの感覚で使っていると音が出ず、「あれ? タップが甘かったかな?」と、再度画面に触れようとしたところで音楽が鳴り始めて……という感じだ。

 再生画面からは、シークバーを指でタッチして好きな場所から再生したり、ランダム再生切替や、リピート再生指定なども可能。プレイリストは本体から作成可能で、Android端末なのだから当然だが、日本語文字入力も可能。日本語入力ソフトはsimeji(Baidu)がプリインストールされている。

 プレイリストの新規作成メニューから、リスト名を入れ、全曲表示の中からリストに入れたいものを選んで……という方法と、楽曲選択中に画面タップ長押しでナビ画面を呼び出し、そこから指定のプレイリストに曲を追加していく方法の2種類がある。全曲をスクロールしながらチェックを入れていくのは結構面倒なので、後者の方が作りやすい。

 アプリでの再生中は、EQで再生音をカスタムできるほか、サンプリングレートコンバータメニューで、アップサンプリング処理の切替も可能。「変換なし」、44.1kHz/48kHz、88.2kHz/96kHz、176.4kHz/192kHzから選べる。さらに「D-filter」では、デジタルフィルタを「Slow Roll-off」、「Sharp Roll-off」で切り替えられる。いずれも再生音が微妙に変化するが、「D-filter」は40kHz以上の超高域で動作するデジタルフィルタであるため、接続したイヤフォン/ヘッドフォンによっては切り替えても違いがよくわからないという事もあるだろう。

デジタルフィルタ切り替えメニューサンプリングレートコンバータの切り替え横向き表示も可能だ

 ブラウザもインストールされており、Google Playにもアクセスでき、様々なソフトがインストールできる……が、 ハイレゾなどの音楽再生は負荷が高く、別のアプリが起動しているとメモリなどの問題で再生ができなくなる可能性もあり、ヒビノインターサウンドでは推奨していない。実際、Webブラウザも表示が遅く、日本語入力のソフトウェアキーボードが表示されるまで数秒かかったり、文字入力の処理がもたついたりと、最新のAndroidスマホ/タブレットに慣れているとストレスを感じる。

 ブラウザやゲームアプリなどは基本的に使わず、純粋なオーディオプレーヤーとして活用すべき端末だろう。音楽を聴きながらネットサーフィンやゲームをするといった、通常のAndroid端末のような、マルチな使い方を想定してR10を選ばない方が良い。そのような使い方をするならば、別にスマホ/タブレットを買い足した方が良いだろう。ある意味、割り切りが求められるプレーヤーだ。

 無線LANやBluetoothも搭載しているが、説明書には「無線LANやBluetoothはノイズが発生する可能性があるのでOFFにして音楽を再生して」という旨の事が書かれている。音質にこだわった製品であり、バッテリ持続時間なども考えれば、そのように使うのが基本だろう。それにしても、Android端末でこんな面白い注意書きがあるのも、この製品だけかもしれない。

 電源は内蔵のリチウムポリマーバッテリ(4,800mAh)。公称の持続時間は、FLACやWAVの24bit/192kHzで約8.5時間、FLAC、WAVの16bit/44.1kHzで約10時間、MP3の128kbpsでは約10時間とされている。実際に使ってみると、無線LANやBluetoothをONにしているとかなり電池の減りが早い。説明書に従い、どちらもOFFにして純粋なプレーヤーとしてFLACの24bit/96kHzの楽曲をリピート再生し続けたところ、9時間20分で電池がなくなり、自動的にシャットダウンした。再生中、ほとんどの時間、液晶ディスプレイはOFFにしていたのでここまで持ったが、頻繁に操作をしていたらもう少し短くなっていただろう。充電所要時間は8時間となっている。

無線LANやBluetoothの設定メニュー。このあたりは普通のAndroidの画面だ文字入力も本体のみで可能


■単体プレーヤーとしては圧巻の音質

試聴の様子

 試聴にはShureのSE535や、ソニーのヘッドフォン「MDR-Z1000/ZX700」などを使用。基本的にアップサンプリング無し、EQ無し、フィルタ1で再生した。もちろん本体に直接接続だ。

 「藤田恵美/camomile Best Audio」から「Best of My Love」を再生すると、SNが良く、静かで広い音場にクリアな音が広がる。音1つ1つの描写が細かく、DACの素性の良さと、アンプの駆動力の高さを感じさせる。傾向としては、低域をしっかり出すタイプで、クリアであると同時に、重心の低い、安定感のあるサウンドが展開する。

 その低域も、量感、沈み込み、力強さがありながら、情報量が多い。ある種の“凄み”を感じさせる低音だ。一般的に、ポータブルプレーヤーにポータブルアンプを追加すると、最もわかりやすく恩恵を感じられるのが低域パワーアップだが、R10の場合は、本体のみでハイクオリティな外部アンプを追加した後のような低音を聴かせてくれる。同時に、中高域の明瞭さ、クリアさも負けていない。


ボリュームステップが細かい

 また、ボリュームステップの細かさが気持ちいい。0-255まで調整でき、SE535の場合、ゲイン「mid」では、ボリューム210あたりを過ぎるともう耳が痛いほどのボリュームになっていく。そのあたりで、理想的な音量に微調整する際も、調整幅が細かいので、ベストな音量にピッタリ合わせられる。iPhoneのようにステップが大雑把で、絶妙なポイントをあっさり飛び超えてしまう機器に慣れていると、この細かさは感動的。高級プリアンプのボリュームつまみを回している感覚だ。

 鮮度の高い、クリアな音質は、Android AudioSystem内でゲイン調整をせずに再生する「Direct Streaming」再生方式を採用しているからとのことだが、その効果を確かめるべく、Google Playから別の再生アプリをインストールしてみた。選んだのはFLAC再生が可能な無料プレーヤーの「andLess」。このアプリと「HD Music Player」で同じ曲を再生し、同じFLACファイル(いとうかなこ/AnotherHeaven)聴き比べてみると、「HD Music Player」の方がSNや音場の奥行き、中高域のクリアさが一段上。「andLess」の音も悪くないが、比べてしまうと平面的で、高域の主張が強く、音像の背後が見難く、奥行きが感じられない。低域のうねりも雑だ。

 ここでひらめいて、本体側面のボリュームボタンではなく、Androidの設定メニュー内にある「音量」に進み、Android OS自体のボリューム調整をしてみると、「andLess」で再生している時は、音量が変化するが、「HD Music Player」ではバーを動かしてもまったく変化しない。確かにOS側でゲイン調整をせずに出力されているようだ。

 似たような話として、説明書では「再生しながらONにするな」と書かれていたBluetooth機能をONにして、Bluetoothヘッドフォンを使ってみる。すると、「HD Music Player」で再生している音はBluetoothヘッドフォンから音が出ず、「andLess」で再生すると音が出る。このプレーヤーを買って、わざわざBluetoothヘッドフォンで聴く人がいるとも思えないが、どうしても使いたい場合は、「HD Music Player」以外のアプリを使うことになるだろう。

 なお、「HD Music Player」では24bit/96kHzのWAVやFLACはそのまま再生可能。e-onkyo musicで先日販売が開始された「イーグルス/Hotel California」の24bit/192kHz FLACも再生でき、お馴染みの冒頭パートも空気感豊かに聴かせてくれる。

 さらに、DSDファイルの再生も試すべく、ototyで「横田寛之ETHNIC MINORITY Introducing ETHNIC MINORITY live at Yoyogi (DSD+mp3 ver.)」を購入。問題なく再生できた。ハイスピードなJAZZだが、DSDらしい、中高域にしなやかさを感じさせるアナログライクな質感の豊かさも楽しめた。なお、DSDは24bit/88.2kHzにリアルタイム変換しながら再生される。

 ちなみに、これらハイレゾ音源は処理が大変なのか、長時間再生すると、筐体が熱を持つ。室温にもよると思うが、空調の効いた編集部内では、ほんのり暖かい程度で、手に持てないほどではない。


DSDのDSFファイルやFLACのハイレゾファイルもきちんと認識・再生できる


■他機種と比較

フォステクス「HP-P1」
iBassoのポータブルアンプ「D12 Hj」

 ライバル機種として、フォステクスの「HP-P1」(68,250円)と、iBassoのポータブルアンプ「D12 Hj」(実売約3万円)とも比較してみたい。どちらもプレーヤーはiPhone 4Sを利用。HP-P1はUSB-Dockケーブルでデジタル接続、HD12はクライオ処理されたALOのDockケーブルを使っている。

 「HP-P1」と「R10」を比べると、「Best of My Love」では、低域の量感、張り出しはR10の方が強く、HP-P1はレンジの広さを重視しつつ、低域は控えめ、どちらかと言えば中高域寄りのバランスだ。しかし、あくまでバランスの違いで、音の細かさ、情報量は良い勝負。ヴォーカルの口の開閉の生々しさも甲乙つけがたい。HP-P1の方が低域が少ないため、微細な音は良く見えるが、R10も注意深く聴くとしっかり細かい音は出ている。

 ここで「D12」に変更すると、低域の迫力はR10と良い勝負。しかし、音像の立体感、全体的なSNが悪く、クリアさが減退する。

 ダイアナ・クラールの「Temptation」でも傾向は同じ。限りなくニュートラルでワイドレンジ、特定の帯域が主張する事のないHP-P1、それに負けない情報量を維持しつつも、低域の厚みがグッと出てくるR10という違いがある。D12は低域を心地よく、量感豊かに出してくれるが、そのアコースティックベースの音が、弦や、ベース筐体の響きの音の集合体として構成されている事がわかりにくい。R10の低音は、気持よく張り出しながらも、音を一つ一つ、バラバラに分解して聴く事ができる。

 ベースの次にヴォーカルが入ってきた時も、R10はヴォーカルの背後の空間も描写し、音場が立体的に展開。D12はヴォーカルや背後の響き、他の楽器などの境界が曖昧で、全体的に平面的なペタッとしたサウンドになってしまう。

 音の情報量、立体感、鮮度の面では、やはりR10とHP-P1が同じようなレベルに存在し、それと比べるとD12はワンランク下がる。といっても、D12自体はコストパフォーマンスの良いポータブルアンプで、アナログ接続のアンプとしての音質は立派なもの。あくまで、別格の2機種と比べると分が悪いという話である。

 R10とHP-P1は、どちらが良いかという話だが、これはもう好みによるだろう。HP-P1は、iPodとデジタル接続できるポータブルアンプとして鳴り物入りで登場し、その特徴を見せつけるような情報量の多い描写が持ち味。以前試用した時も、そのクリアかつ鮮度の高い音に驚かされ、まさにリファレンスというサウンドが楽しめたが、個人的な好みで言うと、ちょっと「そっけない」音だと感じていた。

 その点、R10はHP-P1と戦える鮮度やSNを持ちつつ、中低域を少し厚めにしたバランスになっており、分析的な描写をしつつ、音楽を楽しく聴かせてくれる、好ましいバランスに仕上がっている。




■まとめ

 プレーヤーアプリの操作性で少し引っかかるものはあるが、ハイレゾのFLACやApple Lossless、DSDまで再生できる多機能さと、これならば別体のアンプはいらないなと思わせてくれるサウンドという、この機種に求められるニーズはクリアしている。

 最大のネックは、実売88,000円という価格だろう。冒頭に書いたように、3万円以上で販売されている64GBの高級プレーヤーと、5万円程度のDAC内蔵アンプのセットと戦うべき製品であり、それらと比べると、再生対応フォーマットの豊富さ、一体型筺体で完結している取り回しの良さなど、利点も多い。

 だが、できればこの利点を維持しながら、価格面での割安さも欲しいところ。例えば内蔵メモリを減らしたり、出力端子を省くなどして、5万円台くらいに抑えてくれると買いやすくなるだろう。今後の派生モデルや、内蔵アプリのバージョンアップにも期待したいところだ。

 いずれにせよ、ハイレゾの非圧縮音源や、DSDファイルの配信が盛り上がりつつある現在、そうした音楽ファイルを手軽に屋外で楽しめ、音質面でも妥協しないポータブルプレーヤーの登場は大いに歓迎したいところ。既にプレーヤー+ポータブルアンプで屋外での音質向上に挑戦している人も、そうでない人も、試聴してみて欲しい一台だ。

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(2012年 8月 28日)

[ Reported by 山崎健太郎 ]