レビュー

スマホからタブレットへ変身、異色のSIMフリー端末「PadFone 2」をAV的に使う

 Android OSを採用したスマートフォンやタブレットが各社から続々と登場。それに伴い、Nexus 7などの購入しやすい価格の端末も増加。秋葉原などでは、9型で15,000円を切ったり、7型では8,000円など、1万円を切る製品も珍しくない。

 こうなると高解像度や薄さ&軽さなど、インパクトが重要になる。そんな中、極めてユニークな機能を備えているのがASUSのスマートフォン/タブレット「PadFone 2」だ。SIMフリーの端末で、価格は79,800円。1月12日より販売されている。

 特徴は一目瞭然、スマートフォンとタブレットをドッキングできる事。正確に言うと、タブレットに見える「PadFone 2 Station」は、ディスプレイとバッテリ、スピーカーなどで構成されており、CPUやメモリなどの重要パーツは入っておらず、単体でタブレットとしては動作しない。スマートフォンを背面にドッキングすると、そこからの映像や音声が表示され、タブレットのようにタッチパネルで使えるという、一種の“外部ディスプレイ+入力装置”だ。

 だが、この「PadFone 2 Station」があるおかげで、ドッキングすれば完全にタブレットとして、引っこ抜けばスマートフォンとして利用可能になる。スマートフォンとタブレットのどちらにカテゴライズすれば良いか悩ましいが、開発元のASUSでは「スーパーフォン」と名付けている。

PadFone 2本体
タブレット型のPadFone 2 Station
PadFone 2をPadFone 2 Stationにドッキングすると、タブレットのように使う事ができる
接続は独自の端子で行なっている

 ドッキングの利点は大きく2つ、1つの製品でスマホ/タブレットという両方の使い方ができる事。さらに、1つの回線契約をすれば、スマホ/タブレットのどちらでも屋外通信ができる事。SIMフリーの端末になっているため、低価格な回線をユーザー自身が選べ、ランニングコストを抑えられる。その反面、本体価格は約8万円と、Android端末としては高価。スマートフォンとタブレットを両方買うと考えればお得な価格ではあるが、常時片方しか使えない事を考えると、できれば5万円程度に抑えて欲しかったところだ。

PadFone 2側の端子部分
スマホを接続した部分が盛り上がるような形状
サイズ比較。左からPadFone 2の本体、Nexus 7、PadFone 2 Station
PadFone 2の側面。下部の方が薄くなっているようだ



AV的にも魅力的なドッキング機能

 実際に使用してみると、ランニングコストだけではない利点が見えてくる。例えば、外食した料理の写真をスマートフォンで撮影、帰宅後に「こんな料理を食べたよ」と家族に説明する場合、タブレットの大画面で見せた方が伝わりやすい。しかし、そのためには普通、オンラインストレージに画像をアップしたり、メールでタブレットに伝送したり、スマホのSDカードを抜いてタブレットに挿入したりする手間がかかる。

 しかし、「PadFone 2」の場合は、タブレット型の「PadFone 2 Station」とドッキングすれば、すぐに大画面で表示できる。表示の切り替え所要時間は1秒程度で快適だ。ちなみにPadFone 2とPadFone 2 StationのどちらにもSDスロットは非搭載である。

 逆もまたしかりで、電子書籍を読んでいる時など。表示は大きな方が快適なのでタブレット状態で楽しんでいるが、途中でトイレに行ったり、外出する時などに、スマートフォンを引き抜けば、コンテンツを表示したまま移動できて便利。Webブラウザも同様で、「さっきタブレットで見ていたサイトは何処だっけ?」と、スマートフォンでいちいち検索し直さなくても済むのが良い。

Webページをスマホスタイルで読みつつ、PadFone 2 Stationにドッキングすれば、同じページが読める

 AV的な利用方法として、Twonky Beamを使って、nasneで録画したデジタル放送も視聴してみたが、こちらも便利。PCで作業しながら、横にスマホを置いて横目でテレビを観て、「この番組面白そうだから、真剣に観たいな」と思った場合はPadFone 2 Stationにドッキング。大きな画面で楽しむという使い方も可能だ。ただし、録画番組を途中まで観た状態でドッキング or 解除すると、再生が停止され、その番組の頭から再生する事になる。シークバーを操作して元の場所まで戻れば良いだけだが、ちょっと面倒だ。なお、録画コンテンツを選択してから再生されるまでは約8秒かかる。

nasneで録画した番組をTwonky Beamを使って再生しているところ
タブレットスタイルでも視聴可能だ
録画番組を探す時も、タブレットスタイルの方が便利だ
FMラジオ機能も備えている

 音楽/映像ライブラリがスマホ/タブレットで完全に共有されているのも快適だ。外出時に聴こうとスマートフォンに保存した音楽ファイルを、布団の上に寝転がりながらタブレットを使っている時のBGMとして再生する事もできる。もちろん、NASに保存してスマホ/タブレットから再生したり、クラウド上に音楽を保管するオンラインサービスでも利用すれば同じ事は可能だが、同じデータを2つのスタイルで使い分けられ、「転送し忘れた」という事が原理的に発生しないPadFone 2のシンプルさは大きな魅力と言えるだろう。

 ハードウェア性能も高く、OSとしてAndroid 4.1.1を採用。プロセッサはSnapdragon S4 Pro APQ8064(1.5GHzのクアッドコア)、メインメモリは2GB。動画を再生しつつ、Webブラウジングを行なうなど、複数のアプリを同時に使っていてもレスポンスは低下しない。ストレージメモリは64GBと大容量だ。

 ただ、残念ながら、前述の通りSDカードスロットは備えていない。スマートフォン単体で考えれば、64GBメモリがあればSDスロット無しでもあまり気にならないかもしれないが、タブレットとしてライブラリの保存的な用途もこなそうと考えると、SDスロットが無いのは不安だ。PadFone 2 Stationにはスピーカーとバッテリ、ディスプレイしか搭載されていないので、どうせならばここにSDカードスロットでも付けて欲しかったというのが本音だ。なお、オンラインではWebストレージの「ASUS WebStorageサービス」が50GB、24カ月無料体験できる。

 ちなみに、両者をドッキングする端子は独自形状だが、よく見るとmicroUSB端子に似ている。試しにmicroUSBを接続してみると、シッカリ固定はされないものの、普通に接続はでき、PCと繋ぐとキチンと認識され、写真を取り出したり、音楽ファイル伝送も可能だった。付属のケーブルを忘れた時などは代用できるだろう。

microUSB端子に似ているので接続したところ、PCから認識できた。しかし、シッカリと固定はできず、グラグラする
こちらが付属の専用端子ケーブル
USBアダプタを介して充電も可能。

 外形寸法と重量は、スマートフォン本体が68.9×9×137mm(幅×奥行き×高さ)、約135g。PadFone 2 Stationが263×10.4×180.8mm(同)で、約514g。どちらも手にすると軽く、ドッキングした状態でも約649gに抑えられているため、片手でも楽にホールドできる。

 スマートフォン側には2,140mAhのバッテリを搭載。3G通信で最長約16時間の通話が可能だ。PadFone 2 Station側には5,000mAhのバッテリを内蔵。2つを接続すれば最大約36時間の通話、約800時間の待受が可能になる。インターネット使用では本体のみで最大約13時間、ドッキング時で約7時間。動画再生は本体のみで約9時間、ドッキング時で約7時間。

 バッテリに関しては、充電時の動作が選択可能。ドッキングしながら充電している場合、PadFone 2とPadFone 2 Stationをバランスよく充電するモードと、PadFone 2を優先して充電するモードが選べる。これとは別に、PadFone 2 Stationの電源をOFFにして、スマホ本体向けの充電用電源としてのみ動作させる「電源パックモード」も選べる。外出時にPadFone 2 Stationを持っていけば、スマホ用予備バッテリは不要だろう。

PadFone 2 Stationを電池パックのように使うモードも
PadFone 2優先モードで充電中の画面

 ディスプレイのサイズと解像度は、スマートフォン本体が4.7型、Super IPS+液晶の1,280×720ドット。PadFone 2 Stationは10.1型の1,280×800ドット、IPS液晶を採用している。どちらも視野角が広く、鮮やかで見やすい表示を実現。特にスマートフォン側のSuper IPS+液晶は暗部の締りも良く、メリハリのある表示を実現している。

 スマホに搭載している外側カメラは1,300万画素と高画素。処理能力の高さを生かして静止画の100枚連写も可能だ。動画撮影はMP4形式で、最高1080/30p、720/60pでの撮影もサポートする。

 なお、PadFone 2 Stationとドッキングした場合、タブレットを横向きに構えると背面のスマートフォンは縦向きになる。そのため、外側カメラを使うと、横向きにホールドしているのに縦位置での撮影という妙な組み合わせになる。それを防ぐため、プリインストールされているカメラアプリでは、縦位置画像の上下を切って横向きの画像を撮影するようになっている。しかし、1,300万画素がフルで使えず、最高で550万画素の撮影となる。メニューから縦位置での撮影に戻せば1,300万画素写真の撮影も可能だ。動画撮影はMP4形式で、最高1080/30p、720/60pでの撮影もサポートする。

タブレットを横向きにホールドして、横位置の画像を撮影しようとすると550万画素に
メニューから縦位置撮影に戻せば1,300万画素撮影が可能に
1080/30p撮影も可能だ
静止画サンプル



気になる点も

 よく出来た製品だが、不満点もある。AV的な面では、内蔵スピーカーのチープさだ。スマートフォン側のスピーカーは低域が出ない、スカスカしたサウンド。これは筐体サイズを考えると致し方ないが、PadFone 2 Stationに接続してもあまり改善せず、スカスカした音が、横向きに持った場合、左から出てくるだけだ。広がりや迫力の面で不満が残る。

スマートフォンの背面。カメラの右横にあるスリット部分がスピーカーの開口部だ
スマートフォン側のイヤフォン端子
カナル型(耳栓型)イヤフォンが付属する
サウンドを変化させる「AudioWizard」アプリ

 いちおうサウンドを変化させる「AudioWizard」というアプリもプリインストールされており、音楽、動画、ゲームなどを選ぶと、音量がアップすると共に、中域の張り出しが強調され、高域も先鋭化されたメリハリサウンドに変化。迫力と厚みがアップするが、やや効き目が過剰で、音量を上げ目にしていると、圧縮音楽などは高域が破綻しやすく、耳がちょっと痛い。もう少し基本性能の高いステレオスピーカーをPadFone 2 Stationに方に搭載して欲しかった。

 もう1つは、ドッキングを解除した時のアプリの挙動だ。プリインストールされているカメラ&静止画表示アプリや、ブラウザなどは問題なく引きぬいた後も利用できるのだが、ゲーム。Google Playからバイクゲームの「Trial Xtreme 3」をダウンロードしてみたが、タブレットでプレイしている途中にスマホを引き抜くと、アプリが終了してしまう。YouTubeアプリで動画を見ていても同様だ。

ドッキング or 解除時に、非対応のアプリは終了してしまう

 なんとかならないかと設定画面を探していると、ASUSカスタマイズ設定の中に、「ダイナミックディスプレイ切り替え」というのを発見。これをONにして再びバイクゲームをテストしてみると、今度は終了せずに、引きぬいたスマートフォンでも継続プレイができた。しかし、YouTubeアプリはやっぱりダメで、アプリが終了してしまう。スマホで面白いYouTube動画を見つけ、タブレットで皆に見せようとした際などに、アプリが終了し、同じ動画を再度探すのは面倒。細かい点だが改善してほしい。

「ダイナミックディスプレイ切り替え」設定
バイクゲームがドッキングを解除しても終了しなくなった

 もう1つは、Google Playでアプリを追加する際、タブレット専用のアプリが入れられないというか、見つからない点だ。御存知の通り、Google Playは、Googleアカウントにログインした状態でアクセスすると、そのアカウントに紐付けられているハードウェアで、そのアプリが利用できるかどうかの情報も表示される。その中で、PadFone 2はタブレットとして扱われていないようなのだ。

 例えば「ファイルマネージャ」というアプリの場合、タブレット向けに、広い画面に最適化された「ファイルマネージャHD」というアプリも用意されている。しかし、PadFone 2をタブレットモードにしてGoogle Playにアクセスしても、対応タブレットと認識されていないため、「ファイルマネージャHD」が検索結果に登場せず、インストールできない。スマートフォン向けの無印「ファイルマネージャ」だけインストール可能という状態だ。

タブレット用アプリがダウンロードできない。PCのブラウザから、タブレット用アプリのダウンロードページを表示してみると、PadFone 2は非対応の端末と表示されている
「パッド専用アプリ」の設定項目

 これも設定でなんとかならないかと探してみると、「パッド専用アプリ」という項目を発見。パッドモード専用アプリがスマホモードでは起動できないので、その際の動作を設定するものだが、「閉じる前に確認する」、「Google Playで常に検索」、「常に閉じる」が選べるというもの。「意味が少し違うような……」と思いながらも、試しに「Google Playで常に検索」にチェックを付け、前述のタブレット用アプリを探してみたが、やはり表示はされない。もしかしたら、この設定変更で表示されるようになるタブレット専用アプリが他にもあるかもしれないが、結論として、このあたりはよくわからなかった。

 というのも、iPhone向けとiPad向けのアプリコーナーが区別されているアップルのApp storeと違い、現在のGoogle Playでは、スマホ用とタブレット用の明確な区別が無く、例えば「○○アプリHD版」など、名前に特徴があるものから想像してダウンロードするしかない。かといって、「HD」とだけ入力すると検索結果が膨大になってしまう。もう少し、アプリを探しやすくして欲しいものだ。

 また、今後増えるかもしれないPadFone 2のような“変身するデバイス”に対しては、常にスマホ/タブレット向け、両方のアプリを検索結果に表示させるなど、柔軟な対応も期待したい。

 なお、2chビューワーの「2chMate」では、アプリの中に「タブレット用モード」への切り替えが用意されていた。スマホが高解像度になっていくにつれ、このように、1つのアプリでスマホ用/タブレット用が共用できるソフトが増えていくのかもしれない。



まとめ

 音質やドッキング or 解除時の挙動など、細かな部分では不満もあるが、1台2役の魅力が霞むほどではない。同じコンテンツをスマホとタブレット、2つの見方で活用できるというのは、実際に使ってみると想像以上に快適だ。

 動画も音楽も写真も、何もかもクラウドにアップロードし、高速なダウンロード回線環境が常に確保されていれば、独立したスマホとタブレットを使っても同じような環境は構築できるかもしれないが、そうしたサービスや回線を用意しなくても、ドッキングするだけでスグに違ったスタイルでコンテンツが楽しめるというスピード感とシンプルさが最大の魅力と言えるだろう。

 個人的に残念な点は、スマホを抜いた後のPadFone 2 Stationには何の機能も無いところだ。外出時は家に置いておくので、使い道がなくても構わないという事なのだろうが、例えばUSBディスプレイ機能を備えてPCの外部モニタにできるなど、何か活用機能があれば、購入時の後押しになるかもしれない。これは今後のモデルで実現してほしい。

 また、ドッキングで活用の幅を広げるというスタイル自体の広がりにも注目したい。例えばタッチパネル対応の大型PCディスプレイの背面にスマホをドッキングできたり、WindowsノートPCの側面にスマホをドッキング、カーナビのモニタにドッキングなど、ドッキング先のディスプレイがタッチパネルに対応さえしていれば大丈夫なはず。奇抜なだけでなく、今後の活用の幅の広がりにも期待できる異色モデルだ。

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山崎健太郎