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ネトフリ版『三体』、キーパーソンが語る「脚色」の秘密と「ゲーム・オブ・スローンズ」との関係

Netflixシリーズ「三体」独占配信中

Netflixで配信中の『三体』、すでにご覧になっただろうか?

配信開始に合わせ、短時間ではあるが、ネトフリ版『三体』のキーパーソン3人に話を聞くことができた。

今回ご対応いただいたのは、デイヴィッド・ベニオフ氏とD・B・ワイス氏。そして、アレクサンダー・ウー氏の3名だ。ベニオフ氏とワイス氏は、「ゲーム・オブ・スローンズ」のショーランナー。ご存知の方もいるのではないだろうか。そしてウー氏は、ドラマ「ザ・テラー」「トゥルーブラッド」などの脚本も手がけた。

左からD・B・ワイス氏、アレクサンダー・ウー氏、デイヴィッド・ベニオフ氏

ネトフリ版『三体』も、この3人がショーランナーとして作り上げている。

すでにご覧になった方もいるだろうが、ネトフリ版『三体』は、原作からの大胆な脚色とインパクトのあるシーン構成が特徴だ。それらがどう組み立てられたかを聞いてみた。

原作の「驚き」を再現するためにキャラクターを再構成

――最初に『三体』の原作小説を読んだのはいつ頃ですか? また、ドラマ化をするにあたり、どんなことを考えましたか?

アレクサンダー・ウー氏

ウー氏(以下敬称略):原作をはじめて読んだのは5年前ですね。Netflix側が、私たちに「まず読んでみて欲しい」と言ってきたんです。もちろん有名な小説でしたから、すでによく知ってはいたのですけどね。

原作を読んだときの気持ちでまず思い出すのは、特に最後のページにたどり着いたときに感じる「畏敬の念と驚き」です。こんな作品を、一人の人間がどうやって思いつくのだろう? 信じられない、という気持ちです。

ですから、私たちがこの作品をドラマ化するために最も重要なことは、その「驚きの感覚」「畏敬」につながる精神を捉えることでした。

小説はテレビ番組ではありません。理想的な話をすれば、番組を見ているときは、ただ目の前に同じペースで流れ続けます。本を読む時とは異なり、読むスピードが変わったり、止まったり、何かを調べたりするために離れたりする必要はありません。最適化が必要なのです。

『三体』最終予告編 - Netflix

――今回は、原作に対して登場人物を加え、かなり大胆な変更をしています。

ウー:私たちが作ってきたテレビ番組の核心といえるものは「キャラクター」。キャラクターの魅力こそが、次のエピソードや次のシーズンを「見たい」と思わせる根幹です。登場人物のことが気になり、実在の人物のように感じられなくてはいけません。

ですから、ストーリー全体についてのアイデアやコンセプトの多くを、キャラクターが体現していなければなりません。

Netflix版『三体』には、原作では第2巻と第3巻に登場する人物も出てきます。そうすることで、単に視覚効果に驚いてもらうだけでなく、キャラクターに感情移入することができるようになる……と考えたのです。

ネトフリ版が「オックスフォード」を舞台にした理由とは

――特にインパクトが大きかったのは、舞台をイギリス・オックスフォードにしたこと、そして、主たる登場人物として「オックスフォードの5人」を据えたことです。

これは非常に効果的だったと感じます。

D・B・ワイス氏

ワイス:その2つはまさに、原作からの大きな変更点です。

最初の変更は登場人物を多様化することでした。

そして2つ目の変更が、このドラマの舞台を中国のどこかにするのか、それともどこか別の場所に移そうか、ということだったんです。

というのも、このショーは全世界を描いた物語であり、全世界で同時に起こる話について描くものだからです。

この問題に直面している人たち、この問題に対処している人たちが、全世界にいるように見えるようにすべきだと考えました。

ですから誰もがこのドラマを見て、「この世界のどこかに自分自身がいるはずだ」と感じられるはずです。

Netflix「三体」より

ワイス:もう1つ、制約として、私たちは「英語版」の権利しか持っていません。中国語が出てくることは許可されていましたが、あくまで「ドラマを英語版として作る」権利だけです。そうすると、登場人物はみな英語で話すことになる、というのもわかっていたことなのです。

みなが英語を話すのであれば、イギリスであれアメリカであれオーストラリアであれ、英語を話す国を中心に据えるのが理にかなっていると考えました。

私たちにとってオックスフォードは、視覚的にも素晴らしい、美しい場所です。私たちをひとつにまとめてくれる場所でもあります。

特に科学に関しては、共通の科学的目標に向かって働くために世界中から人々を集めてくれるような場所でもあります。そんな場所は、世界にありません。

候補地の中で、オックスフォードはもっともショーに適していたと考えています。

私たちは長年イギリスで仕事をし、多くの人間関係を築いてきました。彼らとまた一緒に仕事をしたい、できるだけ彼らと一緒に仕事をしたいと思ったんですよ。

そして、彼らのほとんどもイギリスに住んでいた。だから、オックスフォードを選んだわけです。

『ゲーム・オブ・スローンズ』チームで『三体』を作り上げた理由とは

――『三体』では科学的ギミックを利用したストーリーが展開されます。バーチャルリアリティーのシーンも主軸になります。それらはとても興味深く、印象的な部分ではあるのですが、一般的に言って、このジャンルに馴染みの薄い人々にはちょっと理解しにくいところもあります。

しかし、Netflix版では非常に印象的なビジュアルや構成をいかし、より多くの人々が自然に受け止めやすい作品になっていました。

ビジュアルやアートを作る上で重視したことはなんでしょうか?

デイヴィッド・ベニオフ氏

ベニオフ:私たちが『三体』の原作小説に惹かれた理由の一つは、そのビジュアルの描写の素晴らしさでした。これまで想像したこともないし、見たこともない世界が、見事に表現されています。

私たちはたくさんのテレビ番組や映画に囲まれており、ある時点で「もう、予想もできないものはないな」と感じ始めるものです。

でも、原作を読んでいる最中、いままでに想像したことがないようなイメージを得られました。ですから原作から受けたイメージを「正しく映像化しようとする」ことは、私たちがこのシリーズに惹かれた魅力を再現するという意味で、重要な要素だったのです。

私たちは脚本家でありプロデューサーでもあるわけですが、私たちが実際に行なっていることの多くは、「私たちよりもはるかに優れた才能を持つ人々に権限を委譲すること」です。

撮影監督である偉大なジョナサン・フリーマンであれ、デブラ・リーのようなプロダクション・デザイナーであれ、視覚効果チームであれ、です。

Netflix「三体」より

ベニオフ:ダン(D・B・ワイス氏)と私は、幸運にも、スティーブ・コールとともに、『ゲーム・オブ・スローンズ』で何年も一緒に仕事をすることができました。そして、あの番組で、優れたスタッフによる素晴らしい仕事を目の当たりにしたのです。

ですから『三体』を手がけることになるとわかってすぐに、まったく同じチームに戻ってもらいたいと思ったんですよ。

「ジャッジメント・デイ(審判の日)」であれ、「ヴァーチャル・リアリティの世界」であれ、さまざまな世界を創り上げるには、それが正しく見えなければならない。そうでなければシーンが台無しになってしまう。

だから、私たちが求めているものを説明するために、本当に頭のいい人たちと一緒に仕事をするんです。

そして、同じショットを何時間も何時間もかけて、しっくりくるまで何度も繰り返す。何度も何度もミーティングを重ねる。一般的に言って、テレビで華やかに見えるシーンであればあるほど、そのために何時間も退屈なミーティングが費やされるものなんですよ(笑)

『三体』の中の別世界: 驚異の映像体験の舞台裏 - Netflix
西田 宗千佳

1971年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、AERA、週刊東洋経済、週刊現代、GetNavi、モノマガジンなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。 近著に、「生成AIの核心」 (NHK出版新書)、「メタバース×ビジネス革命」( SBクリエイティブ)、「デジタルトランスフォーメーションで何が起きるのか」(講談社)などがある。
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