西田宗千佳の
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どこでもTV視聴「VULKANO FLOW」をアメリカから試す

~12,800円で宅外ストリームTV視聴。価格相応の部分も~


VULKANO FLOW

 好きなテレビ番組を好きな場所・好きな時間に見たい、というのは自然な感情だ。だが、それを実現する選択肢は意外と狭いのも実情。そんな中に、新しい魅力的な製品が登場した。アイ・オー・データ機器が「挑戦者」ブランドで販売している、「VULKANO FLOW」がそれだ。

 ちょうどWWDCとE3で海外出張を控えていたこともあり、タイミングもぴったりだ。今回はVULKANO FLOWの「ロケーションフリー性」をチェックしてみた。


 


■ ライバルの3分の1で宅外ストリーム視聴を実現

 VULKANO FLOWは、米Monsoon Multimediaが製造している、宅内の映像をインターネット経由で見るための機器だ。同社がVULKANOブランドで同様の機器を複数商品化しており、FLOWはその中でももっとも安いモデルにあたる。

 「挑戦者」ブランドでは、VULKANO FLOWを輸入し、日本市場に向けた最低限の調整とマニュアルを添付して「価格重視」で販売するものだ。そのため、パッケージもソフトウエアもほとんど英語版のまま。とはいえ、日本語環境でも動作そのものにはほとんど支障はない。

ライバルといえる「Slingbox PRO-HD」

 価格重視だけに、販売価格はかなり安く、12,800円。同様のストリーミング型配信デバイスである「Slingbox PRO-HD」の34,980円に比べ、非常に魅力的だ。

 安価なのは本体だけではない。iPhoneやAndroidでストリームを見るには、どちらも専用アプリが必要になるのだが、VULKANO FLOW用が1,500円であるのに対し、Slingbox用は3,500円(iOS向け)もしくは2,408円(Andorid向け)。トータルの価格で言っても相当に差になる。

 なお、スマートフォン用クライアントをダウンロードする際には、正しく「VULKANO FLOW用」を選ぼう。「VULKANOシリーズ用」が無料で公開されているが、こちらはFLOWには対応しない。

 このように、価格の面ではライバルに対し相当に有利な製品となっている。実際にはちょっとだけ落とし穴もあるのだが、そのあたりは後述することとしよう。

 


■ パッケージはほぼ「アメリカ版」のまま。別途D/コンポーネント変換ケーブルが必要

VULKANO FLOWのパッケージ

 すでに述べたように、VULKANO FLOWは「英語版」をそのまま販売するのに近い形の製品だ。箱の表記も英語のままであるし、パッケージングの仕方もかなりアメリカンな雰囲気が漂う。

 ボディはかなり未来的というか変わった形で、AV機器然とはしていない。外形寸法は415×136×33mm(幅×奥行き×高さ)で、横幅はCSチューナとさほど違わない程度だが、薄さはかなりのもの。持ってみても相当に軽い。

 本体スリットから向こうが透けて見えるくらいなので、内部の基板は相当に小さく簡素なものなのだろう。価格を考えると納得である。かといって、自宅に置いて恥ずかしいデザインになっていないところは美点と感じる。

 冒頭で述べたように、元々米Monsoon Multimediaはこのボディをベースに、様々な「VULKANOシリーズ」を販売している。上位機種ではNASとしての機能まで備えているほどだ。VULKANO FLOWはその中でもっともシンプルな製品であり、映像のストリーム配信のみに絞ったモデルとなっている。

VULKANO FLOW。独特の薄型デザインを採用している
天板。向こうが透けて見える側面背面

 内容物もシンプルだ。ACアダプターに各種ケーブル、他の機器を赤外線信号でコントロールするためのケーブル(俗に言うIRブラスター)くらいのものである。ここで注意が必要なのだが、VULKANO FLOWは「アメリカ市場向け」の製品なので、アナログ入力はコンポーネントおよびコンポジットを基本としている。HDMIなどのデジタル入出力もない。日本ではD端子の利用が一般的だが、そのままでは接続できない、ということになる。

 本体に、D端子とコンポーネントを変換するケーブルは付属してこない。筆者の場合、こんな職業なので変換ケーブルを常備しており、特に出費は不要であったが、持ち合わせがない場合には、別途購入する必要がある。ちなみに変換ケーブルをアマゾンで検索したところ、だいたい1,000円前後から2,000円弱のようだ。

IRブラスターが付属付属のケーブルACアダプタ

 実はVULKANO FLOWは、HDクオリティの配信に対応していない。そのためコンポーネント接続にこだわる必要性は薄いと考えることもできるが、できるだけきれいなソースを入力し、SN比の高さによって解像感を保つという意味でも、コンポーネントでの接続をおすすめしたい。

 ボディ同様、セッティングも簡素だ。

 家庭内LANに接続し、入力端子にコンポーネントケーブルなりコンポジットケーブルなりをつなぐだけだ。VULKANO FLOWから映像出力をし、テレビで同じ映像を見ることも可能にはなっているが、別に接続しなくてもかまわない。

 設定には、有線LANでの接続と、パソコンへの設定アプリの導入が必要となる。設定アプリは、米Monsoon MultimediaのWebサイトからダウンロードすることになる。スマートフォン向けと違い、こちらは無料だ。ソフトはもちろん英語版となるが、単純に視聴するだけなら、特に複雑な設定が必要な部分もないので、苦労はしないだろう。

 ただ単純に視聴する「だけ」なら、だが。

クライアントソフトの設定画面。特に難しい点はなく、入力ソースを選ぶくらいで設定は終わる。問題は次のリモコン設定が大変だ、ということ

 


■ 実は「チューナー向け」の製品。日本製品向けリモコン設定は皆無

 SlingboxとVULKANO FLOWの間には、一つ大きなコンセプトの違いがある。

 Slingboxは「いろいろなデバイスを屋外からストリーム視聴する」ことをコンセプトに置いていた。それに対し、VULKANO FLOWは実際のところおそらく「CATVを宅外から見る」ことに注力した商品である。このあたりはアメリカでのニーズを考えると正当といえる。

Mac版クライアントのバッファリング時間設定画面。容量を減らせばポーズがかかる(タイムシフト視聴できる)時間が短くなるが、その分リモコンの反応は良くなる

 VULKANO FLOWは、各種ソフトで視聴する際、記録容量に応じて自動的に映像を「バッファ」する。簡単に言えば、レコーダでいうところの「タイムシフト視聴」が常に働いているようなものである。そのため、チャンネル切り替えやリモコン操作の本体への反映には数秒(PCからの利用で4秒程度)の時間がかかる。

 チャンネル切り替え程度なら問題ないが、「HDDレコーダ内でメニューをたどって録画番組を探す」ことになると、かなりストレスを感じる。逆にいえば、レコーダ側を操作しなくても、視聴ソフト側だけで、視聴中にポーズや逆送りが可能なわけで、善し悪しともいえる。実際アメリカでテスト中には、この簡便なポーズ機能がとても役に立った。バッファリング時間はクライアント側の設定で変更が可能なので、気になる人は短くしておけばいい。とはいえ、それでもリモコンの反応はSlingboxに比べ遅めとは感じた。

 話を設定に戻そう。

 設定についても、この「チューナで使うことがベース」という設計が強く効いている。VLUKANO FLOWには、IRブラスター機能があり、専用ソフトからのリモコン操作を接続された機器へ受け渡せる。だが、リモコンコードが登録されているのは当然アメリカ市場の製品のみで、日本製のレコーダ関係は登録されていない。また「チャンネル番号を簡単に飛ばして選局する」ことが主軸であり、メニューを移動していく操作もできるが、扱いはサブ的だ。

 結論からいえば、リモコン設定については、一つ一つ学習させていく必要がある。これはかなりの手間だ。アイ・オー・データ機器製の地デジチューナなどは設定ファイルが公開されているのだが、それ以外の機器はない。今回はパナソニック系レコーダ用とソニー系レコーダ用の設定を自分で作り、テストを行なった。これは正直かなり負担に感じた。

 設定という点でいえば、もう1つ引っかかった点があった。宅外から視聴する場合、有線接続だとどうもパフォーマンスが悪くてコマ落ちがひどかったのだが、接続をVOLKANO FLOW内蔵の無線LANに切り替えると安定した。帯域を考えると有線の方が安定しそうなものなのだが、アメリカのサポートフォーラムにも同様の指摘があるくらいなので、機器の設計的な特性かも知れない。無線とはいえ、映像品質は逆にきわめて安定していたので、特に大きな問題とはいえないのだが。

 


■ バッファ時間は長いが動作は安定。3G回線には不向きな製品

 では、実際の視聴テストの様子をお伝えしよう。

 自宅は光ファイバー接続(最大100Mbps)であり、実効でおおむね40~50Mbps程度は出ている。

 利用した端末は、Windows機とMac、それにiPhone 4とMOTOROLA XOOM Wi-Fi(TBi11M/Andsroid 3.0)。アメリカではXOOMの代わりに、HTC Flyer(UKモデル、3G内蔵)も利用した。以下、iOS用クライアントの画像はiPhone 4で、Android用クライアント用画像はHTC Flyerのもので、どちらもアメリカ国内で撮影したものである。

 ソフトのセットアップが終わっていれば、利用は難しくない。自宅のVULKANO FLOWを登録した専用クライアントを起動すれば、後は接続するだけである。機種や回線によっても異なるが、接続初回に数十秒のバッファリング待ちが発生した後、映像が表示される。

Windows用クライアントを、LANで利用しての視聴画面。帯域が十分確保されているので、映像は当然すっきりしているMac用クライアントで、アメリカから無線LANを介して視聴した時の画面。映像はNormalクオリティのもので、ちょっと眠くはなっているが、動き始めてしまえば意外と気にならない

 表示画像の解像度は端末によって異なる。詳しくは表をご覧いただきたいが、最大でも720×480ドット、3Mbps程度である。モバイル視聴には十分だが、HD解像度というわけではない。

端末視聴モード転送時の解像度最大転送速度
iOS
(iPhone4/iPad/iPad2)
Normal352×240/2881,024Kbps
Medium640×480/5762,048Kbps
High720×480/5763,072Kbps
iOS
(上記以外の機種)
固定320x240/2881024Kbps
Android 2.3/3.0 以降Normal352×240/2881,024Kbps
Medium640×480/5762,048Kbps
High720×480/5763,072Kbps
Android 2.2 以前Normal320×240/288600Kbps
Low320×240/288300Kbps
Windows/MacNormal352×2402,500Kbps
Mid528×3522,500Kbps
Mid/High640×4482,500Kbps
High720×4802,500Kbps

 きちんと動いていれば、画質は十分だ。日本の3G環境下では、どの設定もMedium以上、すなわちVGA前後の解像度で視聴ができた。WiMAX環境下ならHighでもまったく問題ない。

 今回は主にアメリカ・ロサンゼルスで視聴テストを行なったが、回線速度の制限による画質を除けば、特に違いはなかった。3G(AT&T回線)ではNormal設定(352×240ドット)でもかなりきつく、画像が乱れる状況だったが、宿泊先の無線LAN(スピードテストによる実測では5Mbps程度)とWiMAX(ClearWireによるサービスを、UQ WiMAXでのローミングで利用。実測4Mbps程度)の場合、High、Normalで視聴できた。

 日本と違い、3G回線で利用するのは相当に厳しい印象だが、きちんとした回線があればトラブルもない。1時間もののドラマを2本、30分のバラエティ番組と特撮番組を1本ずつ見たが、どれも途中で途切れることはなかった。

 実際には、1Mbps程度がコンスタントに維持されていれば高画質で十分視聴可能である、という印象を受けた。日本であっても、3G回線ではデータ転送量規制の問題もあり、実用は現実的とはいえないだろう。

iPhone 4で、アメリカから無線LANを使ってストリームを受けた場合の画面。1Mbps程度の実効レートが出ていれば、十分に高画質な映像が伝送できている印象だiPhone 4で、アメリカの3G回線を使って受信。Normal設定でもコマ落ちが発生するくらいで、快適に使える環境とは言い難かった。日本でも画質は似たようなものだが、コマ落ちは少ない
Android用クライアントの画面。動画キャプチャがうまくいかなかったので設定とバッファリング画面でご容赦を。動作そのものはiOS版と大差ない

 テスト中ちょっと困ったのは、「同時には1ストリームしか配信できない」という制限だ。VULKANO FLOWは1台につき1クライアントしか使えないのだが、そのため、クライアントを次々と切り替えて使おうと思っても、しばらくは前に使っていたクライアントが宅内のVULKANO FLOWをつかんでいる扱いになり、しばらく待つ必要があった。

 とはいえ、普通は複数クライアントをとっかえひっかえ使うようなことはないだろうから、それほど問題になる制限ではないかもしれない。

 また、唯一Android 3.0で動作しているXOOMのみは、音声と映像のずれが大きく、実用的と感じなかった。どうも映像デコードで遅延している印象だ。Andorid 3.0はまだ最適化の度合いが低く、映像のデコードでコマ落ちが見られる場合が多いので、VULKANO FLOW用のクライアントでも同様の現象が起きるのかも知れない。

 結論から言えば、VULKANO FLOWはかなり使える製品だ。もちろん、動作の重さやクライアントソフトの出来などに問題は感じるが、ソフトも含め15,000円以内で完結する経済性の上では些細なことと感じる。あとは、日本でよく使われるリモコンコードの整備さえ進めば、「わかっている人には間違いなくお勧め」できる製品になりそうだ。

(2011年 6月 16日)


= 西田宗千佳 = 1971 年福井県生まれ。フリージャーナリスト。得意ジャンルは、パソコン・デジタルAV・家電、そしてネットワーク関連など「電気かデータが流れるもの全般」。主に、取材記事と個人向け解説記事を担当。朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞、週刊朝日、AERA、週刊東洋経済、PCfan、DIME、日経トレンディなどに寄稿する他、テレビ番組・雑誌などの監修も手がける。近著に、「電子書籍革命の真実未来の本 本のミライ」(エンターブレイン)、「メイドインジャパンとiPad、どこが違う?世界で勝てるデジタル家電」(朝日新聞出版)、「知らないとヤバイ!クラウドとプラットフォームでいま何が起きているのか?」(徳間書店、神尾寿氏との共著)、「美学vs.実利『チーム久夛良木』対任天堂の総力戦15年史」(講談社)などがある。

[Reported by 西田宗千佳]