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「スター商品をOne Sonyで作る」。ソニー平井社長

Xperia Z1に自信。4Kとハイレゾで“五感”に訴える

ソニー 平井一夫 社長兼CEO

 IFA 2013会場にて、ソニーは日本人記者向けに、同社社長兼CEO・平井一夫氏を囲んでのラウンドテーブルを開催した。話題の中心は今回発表された「Xperia Z1」「DSC-QX10/QX100」などの製品群だが、今後の戦略や商品に対するポリシー、PlayStation 4(PS4)の予約状況など、話題は多岐に渡った。

One Sonyを実現、「スター」としての商品を大切に

 平井社長はまず、IFAでの発表の狙いと、ここ数カ月の成果について説明した。

スマホにDSC-QX100を装着

平井:昨年の4月にCEOに就任してから、エレクトロニクスのビジネスはモバイル・デジタルイメージング・ゲームとネットワークサービスをコアとして集中していくこと、テレビの復活・新興国戦略・ポートフォリオの見直しなどを発表させていただきました。

 それらをくくり、「One Sony」でやっていくんだ、とメッセージを出させていただいていますが、今回のIFAにおいても、力強い商品を集中領域・コアビジネスに対して発表できたことには、非常に強い手応えを感じています。

 レンズスタイルカメラ「DSC-QX10/QX100」に象徴されるような、「One Sony」の活動の中で生まれてきた商品がお客様に提供できることに、非常に強い手応えを感じていますし、ソニーの持っている色んな技術・事業部を越えたところで感動をお伝えできる、感じていただける製品を作っていきたいと考えています。

 今回のIFAでは、例年以上に発表された製品が多い印象がある。日本で発表製品をチェックしている読者の方々の目にも、リリース数の多さは感じられるはず。それは「IFA」を一つの契機とみた、意図的な攻勢なのだろうか?

 だが、平井社長は若干否定的なニュアンスで説明する。

Xperia Z1

平井:今回、Xperia Z1やDSC-QX10/100、ハイレゾオーディオや4Kの新展開など、色々と発表させていただきました。

 約1年半前に就任して以降、色々な場で、「エレクトロニクスの復活に奇策はない。まずはお客様に感動していただける製品を、徹底的に掘って、積極的に出していく。しかも時にはリスクをとって」とお話させていただいています。

 やっとそういう、様々な領域で出始めてきた、開発が進んで市場に出せるタイミングになってきたので出している、ということです。IFAですとかCESですとか色々なイベントがありますが、そういう場で次々と発表していきたいと思います。しかし、特に今回、IFAにあわせた意図があったというわけではなく、良い商品が出来上がってきたのでご紹介する、という形にしています。

 すなわち「就任から1年半で、ようやく力のある製品が揃った」タイミングが、この年末商戦になった、ということなのだろう。

 そうした製品のアピールの仕方は、筆者など、会見に参加したプレスの面には、いままでよりも少々違った形に見えた。より「製品重視」「体験重視」のアピールだと思えたのだ。そのメッセージを、平井社長も否定しない。だが「メッセージングを変えたわけではない」ともいう。

平井:意図的にメッセージングを変えていこう、ということは、ありません。

 しかし、私は社内でつねにこう説明しています。

「エレクトロニクスにおいて、スターは『商品』なんだ」と。

 音楽でいえばいい歌手、映画業界でいえば素晴らしい映画作品を作っていくことと同じように、「スターになれるような製品」を徹底的に作っていくんだ、ということを言っています。

 色々なショーでも、まずは「商品が際立ってキレイに見えるような展示・照明のあり方」などを、自ら話してきましたし、同様に、店頭でも訴求しています。その一環の流れとして、プレスの方々やお客様に違って見えてきている、ということなのでしょう。私としては、「いい方向に違って見えている」とご評価いただいた、と理解しているのですが。

 そういう考え方が全社的少しずつ浸透してきたのかな、という風に思っています。

 すなわち、Z1やQXシリーズといった「スター」になれる商品を作れたことそのものが、今回の変化の根幹……ということなのだろう。

 なお、1月のCESで開かれたラウンドテーブルにおいて、平井社長は、「社内に、まったく新しい製品群を作るための直轄プロジェクト」がいくつも存在することを公表している。QXシリーズのようなユニークなものは、そうしたプロジェクトの一環なのだろうか?

平井:QXシリーズは、デジタルイメージング事業部で発案されたものです。

 CESでお話しした「直下でのプロジェクト」商品とは違います。色々な商品を練って、今後ご紹介できれば、と思います。私もあーだこーだ、色々いいながら進めていますので。

 どうやら、「平井直下プロジェクト」の内容が表に出るのは、まだ先のことであるようだ。

「Xperia Z1」に自信、ソニーの価値をつぎ込む

 今回ソニーが発表した製品の中でも、特に注目が集まったのがXperia Z1だ。スマートフォンは現在、「個人向け製品」の主力中の主力。最大・最強のライバルであるアップルの製品投入を控え、同じIFAでは、やはり強力で、シェアでははるか先を走るサムスン電子も存在感が強い。

 だからか、Z1については質問も集中した。

 Z1はよくできた製品だ。だが、スマートフォンにはアップルとサムスン電子という、強力なライバルがいる。そうしたライバルへ対応するための、基本的な方針はどういったものになるのだろうか?

平井:どう差異化するか、特にスマホの領域でどうするのか、ということなのだと思うのですが……。

 要は、「ソニーがもっている強みはなんなのか」ということを、特に100%子会社となったソニーモバイルに対し、社長となった鈴木国正(筆者注:執行役 EVP・PC事業、モバイル事業、UX・商品戦略・クリエイティブプラットフォーム担当)と議論しました。やはりソニーグループとしてもっている強い部分を、事業部を越えて、まさしく「One Sony」としてスマートフォンというカテゴリに徹底して投入していきます。

 普及価格帯のサイバーショットの売れ行きが残念ながら鈍ってきています。もう普及価格帯のサイバーショットは買わない、というお客様が、他社に流れてしまうことはあってはならない。

 ですから、ソニーがもっている映像の技術を徹底的に生かし、ご評価いただけるスマホを作る。ソニーの中にお客様に止まっていただく、ということが大切だと考えています。
 単純に申し上げれば、ソニーの持っている技術を、事業部を越えて徹底的に、様々な商品に入れていくことこそが、差異化ポイントになるのではないかと思います。

 すなわち「ソニーの価値をつぎ込む」という点こそが差別化ポイント、ということになるのだろう。では、「Z1の次」で差別化する点はなんだろうか。カメラの次はどこを強化するつもりなのだろうか。」

平井:Z1を発表させていただいたところなので具体的なお話をするのは難しいです。しかし、まだまだソニーの力で差異化できる機能や技術は色々あります。ソニーのスマートフォン Xperiaをさらに魅力的にするために足すべきだと思えば、「One Sony」としてやっていくのがソニーのスマホが進むべき道だと信じていますし、それが他社のスマホには無い強みです。

 他方で現在、スマートフォンの先進国での普及はおおむね終わりつつある。

 これからのスマートフォンは「中位以下」の、手頃な製品の比率が増えるとみられている。そうした製品への対応はどうなるだろうか? また、利益率が落ちていく可能性については、どう考えているのだろうか?

平井:スマートフォン自身の製品として強いものを作らないと、ASP(Average Selling Price、平均売価)については下がってきてしまうと思います。まずはそこでちゃんと利益を確保するために、強い商品を作ることが第一です。

 しかしそれに加え、QXシリーズもそうですが、周りのアクセサリでどういう風にスマートフォンの体験を広げるか、そしてそこにどういう製品を提供するかが重要です。

 これはスマートフォンもプレイステーションも同じなのですが、アクセサリは非常に利益率の高いビジネス群です。そこにいかに、クリエイティビティの高い商品を展開していくかが重要と考えています。

 また、ソニー・エンターテインメントネットワーク(SEN)であるとかPlayStation Mobile(PSM)などのネットワークサービスに入っていただき、そこでコンテンツを楽しんでいただくのも、ビジネスの広がりの一つと考えています。

 Z1から見たフラッグシップ以外の展開については、絶対必要だと思いますし、当然していきます。

 スマートフォンに特化し、フィーチャーフォンは絞っていますので、スマートフォンの世界でZ1をトップとして下方展開していくことは、これまでもやってきましたし、これからもやっていきます。

 しかしこの点については、地域特性があります。日本では出ないローエンドに絞った製品も、他の地域では出ています。全世界でいえば、日本で見えているより、かなり商品の展開があります。

 スマートフォン向けに、これだけノウハウを投下したのなら、逆に、スマートフォンから他の製品群にノウハウを還流する必要がある。そこをどう見ているのだろうか?

平井:考え方としてですが……。

 他のビジネスへスマートフォンでのノウハウを「戻す」という点でいいますと、QXシリーズのような周辺機器的な展開もあるのですが、普及価格帯の製品がスマートフォンに移っていくのであれば、デジタルイメージングの部隊はどうやって今後ビジネスを続けるのか、という点もあります。

 その中で、DSC-RX100やRX1のような「徹底的なプレミアム」の方に振っていこう、という発想があります。ある意味、スマートフォンでは達成しない領域へと、より集中していかざるを得ない。課題がより明確になっていくという、ビジネス戦略上の効果というものもあると思います。

 また弊社としては、「ワンタッチ」、NFCを軸としたソリューションを積極的に展開しています。私が副社長の時代から「UXを極める」ということで徹底してやっていますが、年内には100以上の製品がワンタッチに対応します。こういうことも広がりです。

 そうすると、数が減っている「普及価格帯のデジカメ」ビジネスは、急速にシュリンクさせる、という印象を持つ。実際、先進国ではそうなりそうだ。だが、それがソニーのビジネスすべてでの判断ではない、平井社長は説明する。

平井:日本市場での見え方と海外市場での見え方は異なります。各市場での商品展開は、きめ細かく考えていきたいです。

「普及価格帯はシュリンクするから全部シュリンクするんだ」というのは、ちょっとやり過ぎなところがありますので、ひとつずつ市場を見ていきます。

まずは「日本」「欧州」から、北米はじっくり攻める

 日本では、NTTドコモとのコンビにより、「Xperia Z」「Xperia A」をヒットさせた。ヨーロッパでも、Xperia Zの人気は上々。Z1もヒットの兆しがある。こうした結果が、ソニー内でのスマートフォン事業の評価を一変させた部分がある。

 しかし、スマートフォンの最大市場である北米では、いまだiPhoneとGalaxyシリーズが圧倒的なシェアがある。ソニーは北米で苦戦しているが、その点はどう見ているのだろうか?

平井:北米市場は大きく、マーケティングも含め色々な投資が必要だろう、と判断しています。ソニーモバイルのビジネス規模を考えると、日本・ヨーロッパ・中国・北米で一挙に戦うのは無理があるだろう、ということです。

 まずはホームグラウンドである日本を徹底的に固めるのがファースト・プライオリティ。次に2位・3位のシェアがあるヨーロッパを固めるのが二番目。その次に中国もしくは北米を、というプライオリティ付けをした上で、戦略をたてていきます。北米では、Xperia Zについて、T-Mobileと組んでやっていますが、これからタイミングを見て、徹底的に攻め込んでいく時期が来ると思っています。

 国内の年末商戦については、ソニーモバイル・ジャパンとNTTドコモの間で、密接な情報交換をさせていただいています。

 いままでドコモではツートップとして、Xperia Aは非常に好調だったわけですが、今後どこが参入されるかはキャリアさんのご判断です。Xperia Z1は非常に商品力が強いと思いますし、お客様にフルラインナップをご紹介いただく中で、有効活用していただきたいとは思いますが、色んな交渉の中でのことですから、今はっきりとご説明することはできません。

 ちなみに、Zの時には、製遺品が比較的素早くなくなってしまい、買いたくても買えないユーザーもいた。Z1ではどうなるだろうか?

 供給量についてのコメントはなかったが、製造ラインの構築については、色々考えているようだ。

平井:Zの時もすばやく立ち上げたのですが、Z1はもっと早く立ち上げよう……ということで、中国の合弁企業であるBMCを中心に、いかに製造ラインを素早く立ち上げ、品質を確保するかという点を、ソニーモバイルにとっての新たなチャレンジとしてやってもらっているところです。

ウェアラブルでは「人間の不動産価値」に着目

 スマートフォンの「次」にも注目が集まっている。特に話題が多いのは、腕時計型の「スマートウォッチ」だ。昨日も、サムスン電子が「Galaxy Gear」を発表した。ソニーは、ソニーモバイルで「SmartWatch」を継続的に販売しているが、まだヒットには結び着いていない。ソニーとして、ウェアラブルはどう定義しているのだろうか?

ソニーモバイルから発売中のアクセサリ「Smart Watch 2」

平井:弊社もスマートウォッチを最初に出させていただきましたが、各社さんいろんな形で製品が登場しています。

 市場としては非常に大きくなる可能性がある……と評価している一方で、社内でウェアラブルを考えている人間に言うのですが……。

 モバイルならば、色んな製品をポケットやカバンに入れて持ち運べます。4つ5つでももっていただけます。

 でもウェアラブルになると、ブレスレットを4つつけて、スマートウォッチが2つで、グラスが3つ……なんていうのはあり得ないですよね?

 失礼な言い方になりますが、人間の体という「不動産」はとてもバリューが高いので、そこにブレスレットを一つしていただくのは、そのためのハードルが高いですし、その後に買い換えていただくのも難しい。そのくらい不動産の価値が高い、と認識する必要があります。

 ですから、市場としての価値は非常に高くチャレンジしがいがあると評価していますが、「これは面白い」「これは使えるね」と言っていただける商品であれば絶対にはまると思いますし、そこで競合の参入障壁はあると思います。

 色んな可能性を厚木(テクノロジーセンター)でも検討していますが、みなさんが行こうとしている分野だけに、競争は激しいです。

 私は、厚木の研究開発所に遊びに行くのが大好きなんですよ。そこでなにをやっているかというと、開発中の色々なものを見せてもらっています。

 そこには、ウェアラブルなものもあればそうでないものもありますが、「これ商品になるかわかんないけどね」みたいに話しながら、ワイワイガヤガヤやっています。

 そうしたところを見ながら、チャレンジではありますが、スマートウォッチに限らず「ここだ!」という部分があれば、展開していきたいと思います。

 スマートフォンと違い、ソニーが存在感を出せていないのがタブレットだ。PCも、市場全体ではシュリンクしており、VAIOも数を伸ばせていない。

 今回、「VAIO Fit」や「VAIO Tap」など、意欲的でクオリティの高い製品を発表しているが、そうしたことは、「タブレット」と「スマートフォン」の立て直しに、どう影響するのだろうか。

平井:PCとはなにをさすのか、という議論になってきますね。

 いわゆるクラムシェル型の典型的な製品については、確かにどんどんシュリンクしています。その中で、タブレットですとか、PCなのかタブレットなのか定義が分かれる、キーボード分離型やフリップ型などを提案し、市場での使い方をリードしていくのが大事かな、と思っています。

 それから、ソニーの場合、昔から「スタミナ」、すなわちバッテリーライフの長さをやっていますし、デザインやPSMの展開などもあります。

 もう、PCとタブレットの境目はなくなっていると思いますが、その部分のビジネスは徹底的にとっていかないといけない、と思います。

 そこで重要になってくるのが、ソニーモバイルのもっているスマートフォンのノウハウです。製造・設計から生産につながるノウハウが特に重要だと考えています。Xperia Tablet Zもソニーモバイルで展開しましたが、そうしたことが効いてくると思います。

 テレビはいいとして、PC・タブレット・スマートフォンの境目はどんどんわからなくなっていますし、その中でのコンバージェンスは起きると思います。PCもスマートフォンもやっている強みをどう生かすかが重要かと思います。

 では、そうしたデバイスにおいて、「Android以外」のOSの可能性はどうだろうか?

平井:何が何でもAndroidに固執するわけではないです。市場を見ながら臨機応変に、考えています。モバイル・ワールド・コングレスでは、テレフォニカと組んで「Firefox OS」ベースでの展開も発表させていただいていますが、これがひとつの象徴です。

 9月3日、米マイクロソフトはNokiaから携帯電話端末事業を買収した。この結果によって、マイクロソフトとの関係は、今まで通りの「密接なサードパーティー」から「ライバル」に変わる可能性がある。平井社長も、まだ評価は「保留」と言う。

平井:まだ今週発表されたばっかりで、ここで言える状況ではないです。マイクロソフトとは色々な形で連絡をとっていますが、彼らがどんな戦略をとっていくのか、サードパーティとしても見ていかなくてはいけないと思います。

「クラウド」時代に「五感」の価値が高まる

 今年5月、ソニーの6.5%の株式を所有する投資ファンド、サード・ポイントは、「映画・音楽事業の分離と上場」をソニー側に提案した。だがソニー側は、それを拒否している。

 ソニーがコンテンツ企業を傘下に持つのは、彼らにとって「価値」があるからだ。そうした、新たなソフトが生む「価値」とは、平井社長にとってどんなものなのだろうか。
 答えは、少々意外な方向に伸びていった。

平井:サード・ポイントの提言は、今年の5月には渡されています。

 ソニーとしてのエンターテインメント・ビジネスの広い価値に、世の中の関心が広まったということは、私にとってはともにプラスでした。

 よく「本業のエレキ」と書かれるんですが、「映画も本業」で「金融も本業」のつもりでやっていて、サブのつもりはないんですがね(笑)。

 でもそういう先入観があったとするならば、この件で非常に注目された価値があった、とは思っています。

 他方「ソニーグループがソフトビジネスをもっているシナジー効果があるのか」という点で、私が同時にご説明したかったのは、モバイル・クラウドの領域の中で、ソフトの価値が比較的上がっている、ということです。ソフトビジネスの価値は非常に大きいですし、100%コントロールできる形であることは、ソニーグループのさらなる価値向上に繋がっています。

 E3で発表しましたように、PSN(PlayStation Network)上でソニーピクチャーズが、エクスクルーシブな形で制作した映像コンテンツを提供しようとしています。「これまでももっとやれば良かったのに」と言われそうですが、One Sonyとして、これからはやっていきます。

ハイレゾ対応をアピール

 そこから展開し、平井氏の話は「絵や音のハイレゾ化」「デザイン指向」に広がり、同社が「4K」と「ハイレゾオーディオ」にこだわる理由へと繋がっていく。

平井:ハイレゾについては、私の考え方をご説明したいと思います。

 いままではデバイスにあった機能が、どんどんクラウドにシフトしています。

 しかしその中で、クラウドに絶対持って行けないのが、人間の五感に直接触れるところです。匂いは無理ですが(笑)、絵がきれい・音がいい・デザインがいい・手触りがいい、軽い・重い、質感がいい、というようなところは、絶対にクラウドには持って行けないですよね。

 なにを言わんとしているかといいますと、こういったものは昔からソニーがお得意としてきた、いわば「ソニーのDNA」なんです。

 そういった時に、「あえてオーディオなの?」という見方はあるかもしれません。しかし、五感の大事なところでお客様に本当に価値を理解していただくには、ハイレゾ音源が配信する・されないに関わらず、ソニーがやらなければ誰がやるんだ、というところだと、私は考えています。

 4Kもそうですしトリルミナスもそうですが、人間の五感にアピールするものが感動を生み出すわけです。そうしたところをソニーはDNAとしてもっているわけですから、徹底的に、クラウドの時代だからこそ、もう一回アピールすることが大事だと考えているのです。その一環としての「ハイレゾ音源」だと考えていただくのがいいでしょう。

 では特に音楽について、「ハイレゾ音源」の提供をどう考えているのだろうか? DSDによる音源提供などがスタートすれば、ハイレゾオーディオ市場ももっと盛り上がりやすくなるはずだ。

平井:これから色々ご案内させていただきますが、ソニーミュージックがありますので、ソニーミュージック・ジャパン、もしくはアメリカのSMEも含め、ハイレゾ展開の議論は始めています。

 アップスケーリングの対応もしていますが、みなさんに本当にご評価いただけるのはネイティブなコンテンツですよね。どうご提供するのかは、議論している最中です。

 私は技術屋でないのでよく分からない部分もありますが、ハイレゾの説明をうけている中で、「デジタルの前」にマスタリングされた、アナログ時代のマスターの方がいい、と言われました。「SNという意味では弱いのですが、周波数特性という意味では、16bitで足切りしていない分、ハイレゾでは広がりがあるんですよ」と説明され、なるほど、と思いました。

 さきほどの「五感」の話も含め、ここにきてアナログマスターが生きる、というのは、新鮮な感じがしました。

24bit/192kHz FLAC対応ウォークマン「NWZ-F880」
500GB HDD内蔵のDSD/FLAC対応デスクトップオーディオ「HAP-S1」とスピーカー「SS-HA1」
DSD/FLAC対応のUSB DAC兼ヘッドフォンアンプ「UDA-1」

 クラウドサービスについてはどうだろうか。Music Unlimitedは、Xperia Z1から採用される「Walkman」アプリに統合され、ずっと使いやすくなる。だが、Video Unlimitedはまだ統合が弱い。今後どうするのか。

平井:結論からいえば、ご指摘のような部分があると思います。特にVideo UnlimitedがあってPSN上のビデオストアがあって……ということになっています。PS4も出てきますので、そこで一緒になって、Video Unlimitedの見え方も変わってくるかと思います。

「4K」普及、放送の早期開始に期待

 ソニーがテレビで推すのが「4K」だ。4K普及の時期、特に日本での時期について、どう考えているのだろうか。平井氏は、放送の実現が重要、とのポイントを示した。

平井:日本では、総務省を中心に「次世代放送推進フォーラム」で色々な議論が行なわれています。本放送は先になるかもしれませんが、早い段階で試験放送で(4Kの)コンテンツをお届けできるようになり、それを認識していただけることが、カギだと思います。ソニーとしてもフォーラムの様々な分科会に、弊社のSVP(上級副社長)クラスの人間がかかわっていますし、私自身も、色々な場面でお話させていただいています。

米国では4K配信対応メディアプレーヤー「FMP-X1」と「Video Unlimited 4K」で4K配信

 特に私が色々な会議で申し上げているのは、弊社はメーカーであると同時に、色々なコンテンツを持っています。「コンテンツ会社からみてこういった政策がどう見えるか」という観点でもお話させていただいているところです。最初の座組を見ると、放送事業者・メーカーなど重要なプレイヤーは揃っているのですが、コンテンツ事業者はどうしたんですか……というところがあったので、そこで関わらせていただいています。

 弊社の場合、アメリカでは独自の配信サービスを展開していますが、「面展開」という意味では、やはり、放送が重要です。弊社の4Kテレビを買って配信をうけていただく形でもいいのですけれど、4K放送がある、という姿があることが理想です。

 逆に言えば、その辺のタイミングが、普及に対し障害とはいいませんが、ネックにはなると思います。

 韓国では4K放送に積極的な動きがある中で、総務省としても非常に積極的に「オールジャパンでやるんだ」ということで音頭をとっていただいているので、比較的早い時期にすすんでいくのではないか、と思います。

 アメリカにおいては、4Kコンテンツをネット配信する策を採っている。そうした方策は、欧州や日本で行なう可能性があるのだろうか。

平井:アメリカでは4Kの映画が10タイトル、プリロードされているBOXを提供させていただいています。9月1日からはダウンロードも始まりました。今後は色々な評価が出てきますので、それを精査した上で、アメリカ以外への展開も考えていきたいと思います。

 いずれにしても、色んな形で、特にスポーツ中心に、4Kのコンテンツをお届けするのが重要かと思います。また(HDMI 2.0に絡み)昨日もお伝えしていましょたが、60p(毎秒60フレーム・プログレッシブ)の映像になるとライブ感がとても強くなりますので、そこも訴求していきたいです。

 ソニーはCESにおいて、有機ELディスプレイの展示を行なっている。また、パナソニックとの合弁で、「2013年中の製造方法確立」を目指す、とも発表済みだ。その進展はどうなっているのだろうか。

米国では発売する湾曲画面の液晶テレビ「KDL-65S990A」

 また、韓国系メーカーは有機ELで「湾曲型」の製品を投入しているが、ソニーはそれを液晶でやろうとしている。

平井:有機ELについては、鋭意開発中です。現状でまだご案内できる状況にないです。

 また、通称「カサミラ」と呼んでいる湾曲画面の液晶テレビですが、参考出展なんですが、すでに出荷している国もあります。中国・ロシア・北米です。非常に新しい考え方の製品ですが、売れ行きをみて、地域展開も考えていきます。

PS4は米・欧で100万台ずつの予約、PSMは「ソフト」でてこ入れ

PlayStation 4

 エレキ事業の「3本柱」の一つ、ゲームはどうだろう? 11月には、アメリカとヨーロッパでPlayStation 4(PS4)の立ち上げを控えている。日本についても、9月9日に「なんらかの発表」が控えている。PS4の予約状況についての、平井社長の評価はどうだろうか。

平井:SCE・ハウス社長からもご報告させていただいていますが、北米と欧州の発売に向けて、それぞれの国で100万台ずつの予約が入っています。発売に向けて早い段階でそこまで行っているということは、力強い手応えだな、と思います。

 アメリカ・欧州のディーラーのトップマネジメントの方々とお話させていただくことも多いのですが、いまの時の話題は「PS4の供給、よろしくお願いします」という話になります。常に言われますので、ディーラーさんの興味の度合いも高いのだ、と認識しています。

 他方、やはり厳しいのが携帯型だ。中でも、AndroidやPlayStation Vita上で展開している「PlayStaion Mobile」(PSM)については、まだ伸びる方法論が見えてきていない。その点は、どう修正舵をあてていくつもりなのだろうか。

平井:申し訳ないですが、奇策はないです。

 PS3、もしくはPS4と、Android上のPSMという世界をつながることをアピールして楽しんでいただけるソフト、ゲームを出せるかどうかです。そうすればおのずと、つないでお遊んでいただけます。

「つなぐ」ことが目的ではないですし、技術的にこうできる、と言ったところで、「なにが面白いのか」をアピールできなければ意味がありません。

 プレイステーションビジネスはなんでもそうなんですが、結局は「ソフトができるかどうか」になるのですが。

西田 宗千佳