“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第593回:ダブルでお部屋ジャンプ! パナソニック「DMR-BZT830」

~家族で楽しい“さくさくレコーダ”登場~


■買い増し需要勃発か?

 アナログ放送が停波して1年余りが経過した。エコポイントの導入もあり、テレビの買い換えは早々に進んだが、レコーダはHDD容量増加と価格下落が続いている事もあり、これから買い増し需要が喚起されていくタイミングに入るかもしれない。

 5~6年ぶりに新しいレコーダを買うという人と、1~2年で早々に買い増しという人では、見る目が違う。すでに最近のデジタルレコーダとはどういうものかを知った人にとって、買い増し機のポイントは細かい部分の仕様、すなわち、使って快適なレスポンスかどうか、変な動作制限が無いかどうか、といったところに重点が置かれる。

 この点でパナソニックがこの秋に登場させたレコーダは、エントリー機を除いてシステムLSI「ユニフィエ」を一新。CPU速度が2倍に、グラフィックス性能もおよそ1.5倍にアップしたほか、エンコーダ・デコーダも従来の2個から3個へと増強し、より快適な操作を実現している。

 最もハイエンドなモデルは「DMR-BZT9300」で、4Kアップコンバータ搭載、ハイレゾオーディオ対応など見所も多いが、店頭予想価格40万円前後と、これはまあ別格である。純粋に強力なレコーダが欲しいという人には、ミドルレンジでの最上位モデル、「DMR-BZT830」(以下BZT830)がまず第一のターゲットになってくるだろう。HDD容量はBZT9300と同じ3TB。店頭予想価格は17万円前後だが、ネットの通販サイトでは12万円台まで下がってきている。

 実はこれまで録画した番組をホームネットワークで飛ばせる「お部屋ジャンプリンク」を試したことがなかったので、今回はこれも対応機器をお借りしている。

 よりパワフルになったパナソニックの新レコーダを、さっそく試してみよう。




■またまた改良されたリモコン

 まずボディだが、デザイン的には前モデルのBZT820と大きな違いはない。黒を基調としたシンプルなスクエアデザインだ。ボタン類は電源、ディスクイジェクト、エコ待機の3つしかない。

前モデルを継承したデザイン左側には電源とエコ待機ボタン右側にドライブのイジェクト

 前面パネルを開けると、BDドライブ、SDカードスロット、USB端子、B-CASカードスロットがある。このあたりも前モデルと同じだ。

 天板にワイヤレス充電「Qi」の充電パッドが組み込まれているが、これは前モデルではもう1ランク上のBZT920にしか搭載されていなかった。今回は価格的にも1ランク下の8xxシリーズに下げてきたというわけだ。逆に最上位のBZT9300には付いておらず、この秋モデルでQi搭載はこのBZT830だけである。

スロット類も目立たないデザイン天板にQiの充電パッドを内蔵

 最近は電器店の充電池コーナーにQi対応製品が普通に置かれるようになってきており、少しずつ広がりを見せてきている。このあたりのじわじわ息の長い戦略は、パナソニックの得意とするところである。

 内蔵HDDは3TBで、前BZT820が1TBだったことを考えると、半年で3倍になった。もっとも価格もそれなりにアップしているが、実売が結構下がってきているので、相対的には今年の春モデルよりもお買い得感は強い。

 背面に回ってみよう。端子類もシンプルで、アンテナ入力は地デジとBS/CS系、外部入力はアナログAV1系統のみとなっている。出力はHDMI×1、アナログAV×1、光デジタル音声×1。デジタルインターフェースとしては、i.LINKとUSB 2.0/3.0端子が付いている。

 外付けHDDは、今回からUSB 3.0対応になったことで、対応HDDを繋げば外部HDDに対して同時に3番組が録画できるなど、内蔵HDDと遜色なく使えるレベルになった。

背面端子もシンプル新たにUSB3.0に対応

 今回大きく変わったのはリモコンである。従来は上位モデルに四角いタッチパッド搭載のリモコンが付属してきたが、今回のリモコンは、円形のタッチパッドを付けてきた。パナソニックのノートPC「Let'snote」シリーズには以前から円形タッチパッドが付いているが、それと同じように周囲をクルクルなぞると、メニューなどがスクロールできる。

印象が大きく変わったリモコン円形のタッチパッドが特徴
フリックの方向は変更可能

 また左右のフリックでページ切り換えという機能は、従来通りだ。フリックの方向は、スマートフォンなどの感覚からすれば逆になっているが、これは設定で変更できる。

 上下左右の十字キーは、以前は四角いタッチパッド全体がスイッチになっている感じだったが、今回はタッチパッドの周りにリング状のボタンを付けている。前モデルではフリックなのかクリック(決定)なのか、それとも十字キー操作なのかといったところが微妙で、若干操作にコツが必要であったが、今回のリモコンは混同がなく、操作もスムーズである。




■快適なレスポンス

 では早速、新機能をいろいろ試してみたいところだが、その前にまず特筆すべき点は、本機はメニュー操作全体のレスポンスが非常に良いことだ。例えばスタートボタンを押してメニューが出てくるまでとか、リモコンのタッチセンサー部分をクルクルして番組表をスクロールする時など、もたついたり引っかかったりすることがない。スクロール量も適度で、期待した通りに動くため、使っていて気持ちが良い。

 これはまったく地味なポイントだが、既に多くの人がスマートフォンのレスポンスに慣れ始めている今、きちんと評価されるべき改善ポイントである。これが、性能が大幅に向上した新ユニフィエの効果だろう。

新ユニフィエを搭載ユニフィエの強化ポイント
複数条件での検索が可能な「スマート検索」

 今回新たに搭載された機能として、「スマート検索」がある。これは番組表、録画一覧、放送視聴時に使えるもので、複数条件にまたがった、いわゆるAnd検索で番組を探す機能だ。だが、そこはレコーダということもあって、なんでもできるというよりは、必要なパラメータの中からユーザーが選んでいくだけで素早く結果が得られるようになっている。

 リモコンのボタン配置も、スタートの上という一等地だ。検索対象、放送種別、次いでジャンル、サブジャンル、フリーワード、人名などを入力していく。検索パラメータは、検索対象によって微妙に変わる。例えば録画済み番組から検索する場合は、人名の代わりに「期間」を指定することができる。

 人名はかなり多くのデータベースを持っている。頭文字を選ばせるのは、絞り込まないときりがないからだろう。人名選択も、リモコンをクルクルするだけでどんどんスクロールできる。

 もちろん全ての項目を入力しなければならないわけではなく、細かい条件から詰めていって全体を検索ということもできる。今週地上波のバラエティに出ているAKBのメンバーは誰か、といった探し方も可能だ。

人名は膨大なデータを持っている検索結果は日付ごとにまとめられる
Webブラウザからシーン検索を実現するミモーラ

 ただ検索対象となるのは、所詮はEPGのデータ内だけなので、頑張って探した割には思ったほど見つからないという印象はぬぐえない。昨今は番組放送後に作られる番組内容のメタデータを検索するサービスが注目されており、先日もソニーの「BDZ-ET2000」で「もくじでジャンプ」機能をご紹介したばかりだ。

 パナソニックでは「ミモーラ」というサービスでメタデータ検索サービスを行なっている。Webサイトで検索した結果でレコーダが再生ポイントにジャンプするという機能はあるものの、レコーダ内部にインテグレートされている感じはない。現状はタブレットなどを組み合わせるというのが現実的なのだろう。しかし、ユーザーがそこについて来られるかは、ミモーラが有料サービスという事もあり、なかなか意識の高い人でないと使われない機能に甘んじているのは残念だ。

 番組予約録画での新機能として、「かんたんおまかせ録画」は強力だ。これは指定したジャンルや番組名を毎日検索して、自動で予約登録してくれるものだ。ソニー機は早くから「おまかせ! まる録」として実装していたが、それのパナソニック的なアプローチだと言えるだろう。

カテゴリを選ぶだけの「かんたんおまかせ録画」大量の子ども向け番組が一気に予約された
番組名でのシリーズ予約にも対応

 おおざっぱには、子供向けアニメやドラマといった5つのくくりがあり、それを選ぶだけで該当するカテゴリの番組をすべて録画予約する。さらに「カテゴリー一覧から検索」を選ぶと、もっと細かいジャンル、あるいはシリーズ番組単位での予約も可能だ。

 番組表から選んで毎週録画の予約をしても同じ事だが、いつも録画で見ている番組は、番組名はわかっていても、どの局で何曜日にやってるのかは覚えていないことも多い。こういうときに役立つ機能だ。特にレコーダの買い増しで購入する人には、こういった予約方法が提供されているのは便利だろう。

 もう一つ、今度はお年寄り向けの機能をご紹介する。以前からDIGAには通常のスタート画面のほかに、「かんたんスタート」画面が用意されていた。録る、見るの機能に限定したメニューで、基本機能だけ使えればいいというユーザーに向けたものだ。

 番組表も普通の表示とは別に、大きな文字で表示されるが、今回はさらに「でか文字」機能が追加された。番組表でハイライトされている番組の文字を、かなり大きく表示する機能だ。


基本機能しか表示されない「かんたんスタート」「でか文字」OFFでもまあまあ大きいが……「でか文字」ONではこの大きさに

 レコーダの番組表はハイビジョン解像度対応になったことで、文字を小さくして複数のチャンネルや時間帯をいっぺんに表示しようとする傾向が強まったが、それとは逆の方向も残しているあたり、まさに全年齢対象という思想が垣間見える。




■テレビの場所に縛られない「お部屋ジャンプリンク」

 過去DIGAやVIERAには、「お部屋ジャンプリンク」機能が搭載されてきた。これは著作権保護されたコンテンツを、セキュアな状態でホームネットワークに流す機能で、実態としてはDLNA + DTCP-IPで構成されている。

 ただDLNAベースとはいっても、どんな組み合わせでも動くわけではない。スマートフォンやタブレットのような、自分でアプリが追加できる汎用端末に関しては、テレビコンテンツに対応できない端末がまだ多いのが現状だ。

 パナソニックでは、お部屋ジャンプリンクの受信対応製品として、ワンセグテレビやスマートフォン、メディアプレーヤーなどを用意している。今回はそのうち、ワンセグテレビ兼マルチメディアタブレットの「SV-ME1000」と、デジタルメディアプレーヤー「UN-MT300」をお借りしてみた。

7型のマルチメディアタブレット「SV-ME1000」4型のメディアプレーヤー「UN-MT300」

 ME1000は7型、MT300は4型のAndroid端末で、OSとしては2.3.6である。機能的には似ており、ともにワンセグ受信対応で、防水機能がある。GUIとしても、素のAndroidではなく、専用機能は大きめのアイコンで配備されている。Google Playにも対応しているので、アプリを入れて普通のタブレットとしても利用可能だ。

 お部屋ジャンプリンクの設定は難しくない。レコーダ側で機能をONにすれば、あとは各端末から専用アプリを立ち上げ、レコーダを割り付ければおしまいである。もちろんWi-Fiの設定などは普通のAndroid端末同様行なう必要はあるが、セキュアなコンテンツをやり取りしているとは思えない簡単さだ。

Android端末ではあるが、独自のUIを備える簡単な設定でOKの「お部屋ジャンプリンク」アプリ

 今回のBZT830は、デコーダを3系統搭載している。これをフルに使えば、お部屋ジャンプリンクで2台の端末から別々の番組を見ている最中でも、本体で番組再生ができる。これはなかなか強力な機能だ。

2台の端末から別々の録画番組を視聴できる放送中の番組も視聴可能端末側に転送された番組は「ビデオプレーヤー」で再生

 お部屋ジャンプリンクを使用するには、同社対応端末が必要になるところがネックではあるものの、価格的にはこなれていて、「SV-ME1000」は2万円台前半で手に入るようだ。7型のAndroidタブレットとしては、Google Nexus 7やAmazon Kindle Fire HDなどが2万円を切る価格なので、それより高いと言えば高いが、防水仕様でワンセグチューナも搭載、さらにお風呂スタンドも付属ということを考えれば、納得できる。

 特にお風呂で録画した番組が見られるというのは、これからの季節まさにキラーソリューションだ。寒いからお風呂に入りたがらない子供を釣るには、格好のエサとなる。

 同様のソリューションとしては、今年夏にレビューしたDIGA+がある。価格的にはDIGA+のほうがこなれているが、シングルチューナ故に、家族で使うというよりは、一人暮らし向けという性格の強い製品だと思う。一方「BZT830」+「SV-ME1000」の組み合わせは、タブレットがテレビ専用機というわけでもないので、潰しが利く。OSが若干古いのが気になるところだが、著作権保護機能組み込みの関係があるので、4.x系へのアップデートは行なわれないだろう。



■総論

 テレビもレコーダも、来年あたりからそろそろ4K対応を本格的に謳い出すと思われるが、多くの人の興味は、単純にもっと面白い番組に出会いたいというだけだろう。BZT830は、3番組同時録画と、3番組同時再生機能のおかげで、1台で家族全員のニーズを十分にカバーできる内容に仕上がっている。

 最も頻繁に使われる本体に関しては、新ユニフィエの高速化により、快適なレスポンスが楽しめる。単に録って見るだけでは勿体ないので、検索機能を徹底的に使いこなしたいところだ。

 内蔵HDDが3TBもあるので当分は不自由しないと思うが、外部HDDもUSB 3.0対応で、内蔵と遜色なく使えるようになった。家族にヘヴィユーザーが2人いても、容量的に足りなくなることはまずないだろう。

 残念なのは、番組メタデータの利用方法が今ひとつこなれていないところである。そもそも外部からデータを読み込んで録画コンテンツとマッチングさせる必要があるので、難しいと言えば難しい機能だが、もう少し本体での利用に組み込んでいってもいいのではないかと思う。

 お部屋ジャンプリンクは、今回初めてテストしてみたが、要するにやってることはDIGA+と変わりなく、設定なども簡単ですぐに使える。端末には番組をファイル転送することもできるので、持ち出しにも対応する。

 また、DTCP-IPもルール緩和の方向性を打ち出しており、今後は専用ハードでなくても、アプリベースでテレビ番組のコンテンツ保護が可能になると見られている。ホームネットワーク内での映像ストリーミングは、これから熱くなる分野に成長するかもしれない。

 現時点で価格と機能のバランスという点では、BZT830はなかなかいい買い物だと言える。

Amazonで購入
パナソニック
DMR-BZT830-K
(2012年 11月 21日)

= 小寺信良 = テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。

[Reported by 小寺信良]