小寺信良の週刊 Electric Zooma!

第599回:ビデオカメラの頂点に立つソニー「HDR-PJ790V」

“Zooma!:ズームレンズ、ズームすること、ズームする人、ズズーンの造語”

第599回:ビデオカメラの頂点に立つソニー「HDR-PJ790V」

空間光学搭載の低価格モデル「HDR-CX430V」も



独走態勢の手ブレ補正

 ビデオカメラ市場は、ここのところデジタル一眼動画に押されて次第に元気がなくなってきており、新境地を開拓しないことには立ちゆかなくなることが見え始めてきた。そんな中にありながら、昨年3月に発売が開始されたソニー「HDR-PJ760V」は、通称「ギョロギョロ補正」こと、レンズユニットごと動かして手ブレ補正を行なう「空間光学手ブレ補正」が圧倒的な性能を叩き出し、ビデオカメラ市場を牽引したのは記憶に新しいところだ。

 先週のCESで発表された米国向けモデルに続き、9日でも日本向けモデルが発表されたので、ラインナップを整理してみよう。まずハイエンドでは、プロジェクタ内蔵のPJ760VとプロジェクタなしのCX720Vは、プロジェクタ内蔵のPJ790Vに一本化される。

 ミドルレンジのPJ590とCX590はそれぞれPJ630VとCX630Vにグレードアップ、エントリーは上位モデルが一つ増えてCX430Vが登場、あとはそれぞれPJ390、CX390にグレードアップする。

発売日型番内蔵メモリプロジェクタ空間光学
手ブレ補正
想定売価
1月18日HDR-PJ790V96GB15万円前後
1月18日HDR-PJ630V64GB11万円前後
1月18日HDR-CX630V64GB10万円前後
1月25日HDR-CX430V32GB85,000円前後
1月18日HDR-PJ39032GB75,000円前後
1月18日HDR-CX39032GB65,000円前後

 今年のポイントは、空間光学手ブレ補正を下のラインナップにまで搭載したことだ。具体的にはハイエンドから新ラインナップのCX430Vまでが、すべて空間光学手ブレ補正搭載となる。CX430Vは店頭予想価格8万5千円前後で、通販サイトの最安値では既に7万円半ばまで下がっており、多くの人がこの驚異の手ブレ補正を手に入れることができるようになるはずだ。

 今回は最上位モデル「HDR-PJ790V」を中心にレビューを行なうが、エントリーモデルの「HDR-CX430V」も手ブレ補正は同じなのか、気になるところだろう。そちらもお借りして、同時記録で比較してみる。


斬新なマイクデザイン

 PJ790Vは、一見するとサイズ感などは前モデルPJ760Vと変わらないように見えるが、正面から見てすぐにわかるのが、大胆なマイクである。これはシューに取り付けてこの形ではなく、本体固定でこの形だ。相当思い切った発想である。

 これだけマイクを突出させると、前方のマイクカプセルが正面に向くので、小技を使わなくても集音性が良くなると共に、サラウンド収録時の特性も良くなる。さらにはウインドスクリーンも付けられるので、電子的に補正しなくても相当の風切り音がカットできるなど、色々良いところがある。多くのメーカーは、わかってはいても、手が出せなかった部分であろう。

大胆にマイクが飛び出したユニークな形状
マイクは5.1chサラウンド収録対応
ウインドスクリーンも付属

 では順にスペックを見ていこう。光学部分は前モデルから変わらず、35mm換算で26~260mmの光学10倍ズームレンズ。空間光学手ブレ補正をONにするとエクステンデッドズームが使えるようになり、トータルで17倍ズームとなる。フィルター径は52mmで、6枚羽根の虹彩絞り。

 ちなみに空間光学手ブレ補正ユニットは、PJ790Vは前モデルと同じだが、下位モデルに搭載されたものはさらに小型化され、630Vシリーズに搭載されているものは体積比20%減、430Vでは40%減となっている。

光学部分の特性は変わらず
空間光学手ブレ補正はエントリーモデルにも搭載。左がCX430V
エントリーモデルながらミドルレンジ並みのルックス
HDR-PJ790V
HDR-PJ790Vに搭載している空間光学式手ブレ補正ユニット
HDR-PJ630V
HDR-PJ630Vの空間光学式手ブレ補正ユニット。小型化されている

 PJシリーズは液晶のフタ部分にプロジェクタが仕込まれているのがポイントだが、「PJ790V」では明るさが従来の20ルーメンから、35ルーメンに向上。また解像度も、以前が640×360ドットであったのに対し、新モデルでは854×480ドットとなっている。

 さらに面白いのは、HDMIの「入力」を付けたことだ。つまり、カメラで撮影した映像だけでなく、別の機器のHDMI出力をカメラに突っ込んで、プロジェクタで投影できる。

プロジェクタ部分もしっかり改良
HDMI出力だけでなく、プロジェクタ用の入力も備えた

 グリップ部の端子類は、外部マイク、イヤホン端子のほか、今回のシリーズより新採用されたマルチ端子となっている。リモコン三脚の制御や電源供給もできるようになった。

 またアクセサリーシューも、従来はハンディカム独自の形状だったが、デジタルカメラのアクセサリを使用できるマルチインタフェースシューに変わった。一般的なアクセサリーシューと同じサイズだ。

従来のD字型端子ではなく、新タイプのマルチ端子に変更
アクセサリーシューもサイズを一新

 なお別売の変換ケーブルかアダプタを使えば、旧タイプのアクセサリはそのまま使えるという。ただマルチインタフェースシュー対応のアクセサリは、旧型ハンディカムでは使用できない。新タイプのアクセサリもいくつかお借りしているので、あとでご紹介しよう。



注目の音声クオリティ

MAH00028.mp4(10.9MB)
MP4モードの撮影サンプル。1,280×720ドット、8bit、MPEG-4 AVC/H.264、30p、6Mbps固定
※編集部注:編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 ではさっそく撮影である。前作から光学性能や画質モードは変わっていないが、今回は撮影モードに新しくMP4が加わっている。これは別売の無線LANアダプタをアクセサリーシューに付けると、ワイヤレスでスマートフォンに動画を転送できるのだが、そのために付けられた機能だ。AVCHDで記録してしまうと、スマートフォンへの転送はできない。MP4撮影では、画質モードなどはなく、1タイプの映像が撮れるだけである。

 画質面では、画像処理エンジンBIONZのチューニングにより解像感がアップしたそうだが、確かに前モデル特有の甘さがなくなり、全体的にしゃっきりした感じの絵になっている。鳥や猫の細かい毛の様子など、細かいところもぼけることなく表現できている。

 さらに、以前は白に飛んだあたりの輪郭にフリンジが出る傾向があったが、これがだいぶ抑えられている。まだ若干紫っぽい輪郭を感じるところもあるが、BIONZの補正が効いているのだろう。

細かい部分の解像感が上がった
白飛びの輪郭もフリンジが減った

 AFの追従性も問題なく、顔認識の精度と相まって、大抵のカットではまず外れることはない。

 手ブレ補正に関しては、前モデルと同等の機構を搭載しているわけだが、エントリーモデルのCX430Vではユニットを小型化した新設計となっている。PJ790Vと同時撮影でテストしてみた。同時に見比べるとわかるが、両機ともまったく同じ補正力と言っていい。プロジェクタの有無や光学性能には違いがあるが、価格が半分程度でこれだけの手ブレ補正が手に入るわけだから、CX430Vはかなり売れ筋となるだろう。

af.m2ts(56.2MB)
AFの追従性は良好
※編集部注:動画はEDIUSで編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
stab.m2ts(99.4MB)
手ブレ補正効果をPJ790VとCX430Vで比較
※編集部注:動画はEDIUSで編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 今回のサンプルは1080/60p/5.1chで、あえてシネマトーンOFFでビデオらしく撮影している。最近のデジタル一眼動画での高コントラストな映像からすれば、若干淡泊に見えるかもしれない。シネマトーンを入れれば高コントラストになるが、このあたりは用途と好みで使い分ければいい。

sample.m2ts(206MB)
PJ790Vの動画サンプル
※編集部注:動画はEDIUSで編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい
ノーマルで撮影
シネマトーンで撮影

 本機には、着脱可能なレンズフードが付属している。以前のモデルも付属していたのだが、これを取り付けると正面右下にあるマニュアルリングのセンターボタンが押しにくいという問題があったが、今回もこの問題は解決していない。

 さらに今回は、マイクが脇に飛び出しているわけだが、レンズフードがあると丁度このマイクの正面を塞ぐ格好になり、集音への影響が気になるところだ。なお音声収録の特徴的な機能として、「くっきり音声」という機能がある。これは顔認識機能と連携して、前方の声の収録特性を自動的にアップさせる機能だ。

レンズフードがマイクを塞ぐ格好に
人の声の収録に特化した「くっきり音声」
audio.m2ts(175MB)
くっきり音声ありなし、マイクフードありなしの組み合わせで音声収録
※編集部注:動画は編集しています。編集部では掲載した動画の再生の保証はいたしかねます。また、再生環境についての個別のご質問にはお答えいたしかねますのでご了承下さい

 これらの組み合わせで音声を収録してみた。朗読文は、青空文庫に収録されている「半七捕物帳・狐と僧」の一節で、すでに著作権が消失しているものだ。なおこのサンプルのみ、2chステレオ収録である。

 音声を聴いていただければおわかりのように、くっきり音声は機能的にかなり効果が高いことがわかる。前方の指向性を高めることで周囲の音をカットしつつ、正面の音声帯域を持ち上げるようだ。

 しかしながらフードを付けてしまうと、前方の集音に影響が出て、せっかくの音声がOFFぎみになってしまう。おそらくこのフードは前モデルと同じものだと思うが、操作性も含め色々問題があるようだ。



アクセサリで無線LANにも対応

 今回はアクセサリーシューが新しくなったことで、別売アクセサリも色々なものがリリースされている。まずは先ほども紹介したワイヤレスアダプタ「ADP-WL1M」だ。

アクセサリーシューに装着するワイヤレスアダプタ「ADP-WL1M」

 昨年あたりからカメラに無線LANを搭載してスマホやタブレットに映像を飛ばすというのが一つのトレンドになってきているが、ソニーのハンディカムシリーズで無線LAN内蔵モデルは、スポーツカメラのHDR-AS15ぐらいしかない。

 今春発売されるハンディカムでは、このアダプタを使うことで無線LAN機能を追加することができる。ただし、このアダプタが対応するのは、最上位のPJ790VからCX430Vまでとなっている。つまり空間光学手ブレ補正搭載機のみ、ということだ。

 無線LANを使ってできることは、「スマートフォンを使ってカメラリモート」、「スマートフォンに動画(MP4)と静止画と転送」、「PCに動画(全フォーマット)と静止画を転送」の3つだ。

 カメラリモートについては、すでにAS15のレビューでもテストしているが、カメラとスマホを無線LANでダイレクト接続し、PlayMemories Mobileというアプリを使用する。

 カメラ側で「カメラ・マイク」設定から「スマートフォン操作」を選択すると、カメラのダイレクト接続モードが起動する。この方法は説明書にも記載がないので、使ったことがない人は戸惑うだろう。

「カメラ・マイク」設定から「スマートフォン操作」を起動
IDとパスワードが表示されるので、スマホの無線LAN設定でログインする
iPhoneのPlayMemories Mobileでコントロール

 機能的にはシンプルで、コントロールできるのは動画・静止画の切り換えとズーム、録画スタートぐらいである。リモート機能が動作しているときは、カメラ側の液晶モニタは映像が映らないので、スマホ側だけで画角を見る必要がある。

 ズーム操作は、画面表示が遅延しているので、必ず行きすぎる事になり、なかなか決められないという難点がある。また、音声のモニターができない点も、AS15の頃から変わっていない。

 スマートフォンへの転送は、多くのスマートフォンがAVCHDフォーマットの再生をサポートしていないので、必然的にMP4で撮影する必要がある。カメラ内部でMP4にコンバートする機能もないので、撮影前に切り換えを忘れると悲惨なことになる。カメラ側はいったん再生モードにして、「編集・コピー」から「スマートフォン転送」を選択する。

「編集・コピー」から「スマートフォン転送」を選択
PlayMemories Mobileから画像を選択してコピーする

 PCへのワイヤレス転送は、ダイレクト接続ではなく、カメラとPCを双方無線LANルータに接続する。PC側はPlayMemories Homeの最新バージョンが必須で、まず最初にUSBでカメラとPCを接続し、ワイヤレス転送に必要なモジュールをネットからダウンロードしておく。

 カメラ側は、事前にアクセスポイントへのパスワードなどを設定しておき、再生モードにして、「編集・コピー」から「パソコン保存」を選択する。

PlayMemories Homeの設定で「Wi-Fi取り込み」をチェック
1ファイルずつ転送が始まる

 やってることはEye-Fiに近いが、アクセスポイント圏内に入ったら勝手に転送を始めるわけではなく、カメラ側での操作が必要だ。ただ動画の転送はファイルサイズが大きいので、バッテリの残量チェックやACアダプタの接続が必要になる。その点では、勝手に転送を始めてバッテリを消費するよりもいいのかもしれない。

 新しいマイクユニット「ECM-XYST1M」は、同社のICレコーダで採用しているのと同じ、可動式マイクユニットを搭載している。左右のユニットを前方に向けて、前の音を中心に撮ることもできるし、広げてステレオ感を強調することもできる。また高さがあるので、レンズフードを付けても、その上からマイクが飛び出すので、集音の妨げにならない。ただ今回お借りしたものは動作可能機ではなかったため、テスト収録はできなかった。

ユニークなステレオマイク「ECM-XYST1M」
マイク角度を自由に変えられる

 新しいポータブルスピーカー「RDP-CA3M」は、前モデルから改善され、かなりの音量が出せるようになった。これは主にプロジェクタで投影するときに使用するものだ。

 改良されたプロジェクタ機能は、明るさが75%もアップしたことで、夜であれば照明を点けたままでも、そこそこの明るさで認識できるレベルになった。特に天井は、照明がつり下げるタイプであれば案外暗いものなので、利用しやすい。

音量が大幅アップしたポータブルスピーカー「RDP-CA3M」
輝度が75%アップして使いやすくなったプロジェクタ機能

 HDMIの入力がついて、さらにプロジェクタが利用しやすくなった。試しにiPadをHDMI出力コネクタ経由で繋いでみたが、問題なく投影できた。カメラ単体だけでなく、タブレットなどの映像が投影できれば、さらにその場で動画や写真の共有体験が拡がる事になる。これもまた新しいソリューションを産みだしていくことだろう。

PlayStation 3と接続したところ
ゲームなども投写できるので活用の場が広がりそうだ
蛍光灯をつけた状態でも表示が見える



総論

 デジタルカメラでそれなりにいい動画が撮れるようになり、じゃあビデオカメラの役割ってなんなの? という答えをもう3年ほど前からじりじりと突きつけられてきたわけだが、うまいこと答えを出して逃げ切っているメーカーは少ない。そんな中ソニーは、レンズと撮像素子の一体という構造を活かした空間光学手ブレ補正により、デジタル一眼にはできない圧倒的な差別化を図ることに成功した。

 さらにそれを約1年越しで低価格モデルにまでラインナップを広げるという、横綱相撲を見せた。いよいよこの技術が今年、普及期に入るだろう。

 今回のハイエンドモデルのポイントは、集音だ。これもデジタル一眼の弱い部分なので、ある意味ビデオカメラとしての性能を伸ばすというよりも、デジカメに対する徹底的な弱み分析の結果が功を奏していると言えるかもしれない。新型のアクセサリーマイクは残念ながらテストすることができなかったが、同社のICレコーダでの性能を聴く限り、これも期待できそうだ。

 その一方で、シューやコネクタの変更により、アクセサリをデジタル一眼と共通化していく流れも作られており、いよいよデジカメとの同化が始まったと言える。

 ここ最近のソニーの製品リリースの流れとしては、春に従来型ハンディカム、秋にはデジタル一眼ライクなNEX-VGシリーズといった具合に、2チーム体勢となっている。ビデオカメラは、季節商品的な意味合いから徐々に脱却しつつあるのかもしれない。

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小寺 信良

テレビ番組、CM、プロモーションビデオのテクニカルディレクターとして10数年のキャリアを持ち、「難しい話を簡単に、簡単な話を難しく」をモットーに、ビデオ・オーディオとコンテンツのフィールドで幅広く執筆を行なう。メールマガジン「金曜ランチボックス」(http://yakan-hiko.com/kodera.html)も好評配信中。