秋葉原でカナル型イヤフォンを自作してみた

-意外に簡単!? 音質チューニングの楽しみも


 オーディオの自作と言えば、スピーカーや真空管アンプなどが定番。一方で、ヘッドフォンやイヤフォンの自作は、なかなか個人では難しい。そんな中、大阪日本橋と秋葉原に店舗を構えるヘッドフォン/イヤフォン専門店「e☆イヤホン」と、ファイナルオーディオデザイン事務所がイヤフォンの自作イベントを23日に秋葉原で開催。実際に参加し、作ってみた。

 会場は、eイヤフォンの秋葉原店にほど近い通運会館。定員25名の枠に多数の応募があったとのことで、注目度の高さを伺わせる。なお、参加費は部材費込で5,000円だが、組み立てるイヤフォンは、商品として発売すれば1万数千円以上する品とのことで、作る楽しみだけでなく、お得感もあるイベントになっている。

 講師はファイナルオーディオデザインの細尾満氏が担当。まずは、自作用に用意されたイヤフォンの概要から。同社は自社のイヤフォンを開発・販売しているのは御存知の通りだが、他社からのODMも請け負っている。ODMは、生産だけを行なうOEMとは異なり、製品の設計段階から担当。そのため、生産する前に「このような音の製品を作りますよ」という試作機を多数開発し、クライアントに提示。音決めなどの参考にするという。今回のイベント用に用意されたのは、そうした試作時に使われる「標準筐体」と呼ばれるイヤフォンをベースに、素人でも自作しやすいよう、カスタマイズしたものだという。


大量のイヤフォン/ヘッドフォンが並ぶ「eイヤフォン」秋葉原店。持参したプレーヤーで試聴も可能だ講師は、ファイナルオーディオの細尾満氏イベント会場の様子。秋葉原にイヤフォン好きが集まって、皆で自作するというのはなんとも楽しい空間だ

 用意されたパーツは、以下の写真の通りだ。

用意されたパーツの一覧。見慣れたパーツから、見慣れないものまで様々。非常に小さいパーツもあるので落とさないように注意用意されたパーツが、イヤフォンのどの部分を構成するかの図第一段階の作業工程図

 まずは、イヤフォンの筐体における、ケーブルの“付け根”に相当する「ブッシュ」と呼ばれる小さなパーツと、ケーブルの接続から。「ブッシュ」の穴にケーブルを通すだけの簡単な作業だが、今回のイヤフォンではブッシュの凹凸が左右のイヤフォンを識別する役割を持っているため、ケーブルの左右とブッシュの左右を間違えないよう、入念にチェック。「緑のケーブルが左、赤いケーブルが右」と呪文のようにつぶやきながら穴に通す。

見慣れたイヤフォンケーブル。だが先端にはイヤフォンはついていないこの小さなパーツがブッシュだブッシュにケーブルを通したところ

 次に、ブッシュを通したケーブルを筺体のリアボディに通す。通したら、ケーブルが抜け落ちないように、先端を結んで“結び目”を作る。この結び目を内部で“つっかえ”にするわけだ。この時、ケーブルの先端が2mmほど残るように結ぶ。結び目から先が長すぎると、筐体内で余ったケーブルがうねるようなカタチになり、内部の作業がしにくくなってしまうそうだ。

これがイヤフォン筐体のリアボディ。金属製なのでズシリと重みがあるケーブルを通して……先端に結び目をつくる

 ここまで完了したら、いよいよ難関、ユニットとケーブルのハンダ付けだ。今回用意されたユニットは8mmのダイナミック型。裏返してみると、赤い印が見える。これが極性のプラスを意味しており、この赤い印の下にある端子に、ケーブルのプラス(左チャンネルなら緑/右チャンネルなら赤)をハンダ付けする。

 どのユニットも、プラス/マイナスは同じかと思ったらそうではなく、ユニットを生産してから検査し、プラス/マイナスが決められるため、並びが逆のユニットも含まれている。ハンダ付けした後で「逆でした」だと洒落にならないので、何度も入念にチェック。

心臓部と言ってもいい、8mmのダイナミック型ユニット赤いマークの下の端子がプラスだハンダ付けする前に「こうやって付けるんだな……」とイメージ

 チェックが終わればいよいよハンダ付け……なのだが、これが難しい。ハンダ付け自体は経験があるが、何しろユニットが小さく、スポンジの上で簡単に動いてしまう。さらにケーブルも細く、思う向きに向いていてくれず、指先で向きを固定しようにも、ハンダゴテが熱くてままならない。写真を撮る余裕もなく、ブルブルと震えるハンダゴテをなだめつつ、息を止めて確実、かつ素早く……。すみません、必死であまり記憶がありません。

ハンダゴテを温めて……いざ!! と言いたいところだが、写真は先生のお手本。ハンダ付けしながら撮影する余裕がまったくなかった先生のお手本。美しい

 しっかりハンダ付けできているか? ショートしていないか? チェックは簡単。プレーヤーに接続して音が出ればOK。無事に音が出て一安心。なお、このハンダ付けの良し悪しでも音に違いが出るそうだ。

今度こそ自分でチャレンジ!苦戦しつつもなんとか完了無事に音が出て一安心

 次に、ユニットの周囲にスポンジのリングを装着。フロントボディとリアボディの接続へと続く。スポンジリングの役目は、フロントボディを上に装着した時に、ユニットから出た音が、確実にノズルへ出ていき、その周囲に漏れ出さないように密閉するため。今回の自作用イヤフォンならではの工夫で、市販製品の場合はより精度が高く組み合わせるため、スポンジは不要とのこと。

スポンジをユニットの先端にペタリこれがフロントボディ

 自作ならではという点では、フロントとリアのボディが、ネジ締めになっているのも特徴。結合を簡単にするための工夫だが、逆に組み立てた後でも簡単にボディの中にアクセスできるため、一度完成した後、筐体内部に吸音材を入れるなどして、音の変化を楽しむ事も簡単にできるという。市販品でも欲しい機能である。

リアとフロントのボディはネジ締めになっているクルクルとまわして結合完了!!
やっと一息。え、まだ終わりじゃない!?

 とりあえずフロントとリアボディを結合すると、外観的にはほとんど完成。満足してお茶を飲んでいると、「この次が一番の難関」というアナウンスが。聞いてないんですけど!?

 次の工程は、ノズルの中に目の荒いスポンジを詰め、その上にゴミが入らないようにするダストフィルタで蓋をする事。簡単そうな作業で、実際スポンジを詰めるのは簡単だが、フィルタの装着が難しい。


スポンジをノズルの奥に詰めて……フィルタ(右)で蓋をする
作業工程図の続き

 接着剤をノズルの口の内側に塗り、そこに円形のフィルタを沈ませるように蓋をするのだが、あまりにもノズルの口が小さいため、爪楊枝の先端で接着剤を内側にグルリと塗るのが難しい。塗りムラができるし、奥に行き過ぎると、先に詰め込んでいたスポンジと接着剤が触れてしまったり、フィルタがうまく平らにならず、修正している内にヨレてしまったり……。爪楊枝でモソモソやっていると、スポンジとフィルタが接着剤でもみくちゃになり、グニョグニョのカタマリへ……。

 失敗したら綺麗に接着剤をこそいでから、再チャレンジ。ところどころ接着剤がハミ出た、あまり綺麗じゃない外観ですが、なんとかフィルタを固定できました。ちなみにこのフィルタ、ゴミを防ぐだけでなく、周波数をチューニングする役割も持った音質面では重要なパーツです。


爪楊枝の先に接着剤をつけて……ノズルの内側にヌリヌリ。あまり美しくない悪戦苦闘の末、なんとかフィルタを固定。ちょっと接着剤ハミ出てますが、見なかったことに
完成したイヤフォンを試聴。音がちゃんと出た瞬間の喜びが、自作の醍醐味だ

 フィルタ設置が完了したら、イヤーピースを装着すればひとまず完成。プレーヤーと繋いで耳に入れると音楽が聴こえます。当たり前のことですが、自分が組み立てたイヤフォンから音が出るのは感動の瞬間。

 しかし、感動が落ち着いてくると、音質について何か言いたくなるのがオーディオマニアの性。冷静に聴いてみると、8cmユニットながら、非常に量感豊かな低域寄りのバランス。迫力は十分だが、個人的にはもう少し低域を抑えて、中高域の抜けの良さもアピールしたバランスにしたいところ。

 これは、筐体の容積が大きいためで、意図的に低域が豊富に出るバランスになっているとのこと。理由はシンプルで、「最初から容積を大きくしておけば、後から内部にモノを詰めて容積を小さくしていく事はできる。しかし、最初から小さい容積のイヤフォンにすると、後から大きくはできない」というもの。確かにごもっとも。


 さらに、音質チューニング用パーツとして丸い銀色のシールと、同じような金属製シールも付属。これは、筺体後部に空いている穴に貼って、穴を塞いだり、そのシールに小さな穴を開けて低音の量を調節するためのもの。穴を大きくしていけば、低音はどんどんアップするが、ある一定のサイズを超えると低音が“抜けて”しまったような音になるとのこと。

 まずは銀色シールで穴のサイズを決めた後、シールのままでは見栄えが悪いので、同じ穴を金属製シールに開けて、“完成版”として貼りつけるという流れ。穴の位置やサイズでチューニングが楽しめる。

調整用シールを貼った後部と、貼っていない後部左が金属製のシール。音が決まったらこちらを使う筐体内部に簡単にアクセスできるため、何かを入れて音の違いを楽しむ事も可能だ

 チューニング要素としては他にも、前述のように筺体内に何かを入れたり、フィルタを交換しても音は変化する。こうしたチューニングの楽しさを通して、「イヤフォンの構造への理解や、市販されているイヤフォン/ヘッドフォンではどのような工夫がされているのかを知る楽しみも伝えたい」(細尾氏)とのこと。

 細尾氏は「東急ハンズに行くと全てがフィルタに見えてくる。誰かの服を見ても、フィルタの素材に使えるんじゃないかと考えてしまう」と笑う。確かに、コレを入れたら、どんな音になるだろうと考えるだけでも楽しい。

 5,000円の参加費で、自作の楽しさが味わえ、完成した高級イヤフォンを持ち帰れる満足感の高いイベント。パーツ代もバカにならないため、大阪で行なわれた第1回と、今回の秋葉原での第2回以降の予定は未定。しかし、反響によっては継続開催も検討しているという。イヤフォンの構造を理解するという面でも、楽しくためになる講座なので、定期的な開催を期待したいところ。

 何より、完成したイヤフォンは小さいため、スピーカーの自作より簡単に持って帰る事ができ、すぐ聴きながら帰れるというのも嬉しいポイント。また、あれこれと改造し、“自分の理想の音”を作り上げ、それを友人などに試聴してもらえるいうのも“自作イヤフォン”の大きな魅力と言えそうだ。

高級感のあるケースがおみやげ

(2012年 6月 25日)

[AV Watch編集部 山崎健太郎]