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今さら聞けないレコード入門。MM/MCって? どれ買えばいい? デノン“アナログマイスター”に教えてもらった

筆者所有のレコードの一部。せっかくなら聴いてみたいが環境がなく……

アナログレコードの生産金額が34年ぶりに60億円を突破、過去の名盤の復刻だけでなく、最新のアニソンがレコード化されるなど、いまアナログレコードが人気だ。この流れに乗って筆者も“アナログデビューしたい”とアニソンレコードを何枚か買ってみた……が、レコードプレーヤーが無いので、音を聴いたことがない!

いざプレーヤーを買おうと調べてみると「フォノイコライザー」や「カートリッジ」、「ベルトドライブ・ダイレクトドライブ」など、CDやサブスク配信に慣れ親しんだ身としては聞き慣れない単語ばかりで、何を揃えればいいのやら。

そんな悩みを編集部に打ち明けたところ、「作ってる人に教えてもらおう」という話に。そこで、日本初の国産円盤録音機をルーツに持ち、伝説のカートリッジ「DL-103」を手掛け、現在も多くのレコードプレーヤーをラインナップする、“レコードのデノン”にお邪魔。同社のプレーヤーを手掛ける、“レコードマイスター”に、レコードプレーヤーの基礎知識やモデル選びのポイントなどを教えてもらった。

講師をお願いした岡芹亮氏

講師をお願いしたのはGPDエンジニアリング スペシャルプロダクト シニアマネージャーを務める岡芹亮氏。デノンの最上位レコードプレーヤー「DP-3000NE」の開発にも携わっている人物だ。

「ダイレクトドライブ」「ベルトドライブ」ってなに?

岡芹先生によれば、レコードプレーヤーを構成する要素を大まかに分類すると、レコード盤が回転する「ターンテーブル」と、棒状のパーツ「トーンアーム」、そして「カートリッジ」という3つの要素で構成されているという。

レコードプレーヤーを上から見る。黒い円盤部分がターンテーブル、右上のシルバーの棒状パーツがトーンアーム、その先端に付いているのがカートリッジだ

このうちターンテーブルは、レコード盤を乗せる円盤状のパーツ「プラッター」と、そのプラッターを回転させているモーターを合わせた総称だという。

ターンテーブルの上のマットを外す
銀色の部分がプラッター
プラッターを外すとこのようになる
このプレーヤーでは、左下の金色のパーツが回転。その回転をベルトを介してプラッターに伝えるので“ベルトドライブ”と呼ぶ

そしてプラッターを回転させる方式には主に「ダイレクトドライブ方式」と「ベルトドライブ方式」の2つがあり、それぞれに長所・短所があるとのこと。デノンのプレーヤーでは「DP-400」や「DP-300F」などがベルトドライブ方式を採用。そして最上位モデル「DP-3000NE」がダイレクトドライブ方式だという。

デノンの最上位プレーヤーDP-3000NE
プラッターを外すと、回転するモーターが中央に見える。モーターがダイレクトにプラッターを回している

岡芹:ダイレクトドライブ方式とベルトドライブ方式、どちらを選んでも問題はありません。

ベルトドライブ方式の「DP-400」

ダイレクトドライブ方式とはプラッターの軸にモーターが直結されていて、そのモーターでプラッターを回転させる仕組みです。それに対してベルトドライブ方式は、プラッターの軸とは違う位置にモーターがあり、ゴムのベルトを介してプラッターを回転させる仕組みです。

この場合、モーターとプラッターはギアが軽い状態の自転車と同じような関係で、モーターが高回転しても、プラッター側は33 1/3回転や45回転など決まった回転数を維持します。

ダイレクトドライブの場合、モーターが直結されているので電気的に制御しやすいことや、大きなモーターを使えることなどがメリットと言えます。ただ良いことばかりではなくて、モーターの素性がそのまま回転に影響するというデメリットもあります。ベルトドライブと違って“結合部”と呼べるものがないので、例えばモーターが振動すると、その振動がそのまま回転に影響してしまう。なので、性能の良いモーターを使わなければなりません。

ベルトドライブ方式は、その名のとおりベルトを介した方式

それに対してベルトドライブの場合は、モーターとプラッターの間にベルトを介しているので、モーター自体の振動などをベルトでダンピングできるというメリットがあります。

ベルトドライブ方式のDP-300FやDP-29Fの場合、モーターに一定電圧をかけて、回転数を一定にしているのですが、かなり長い年月使っていると回転に狂いが出てきます。なぜなら、その回転数が“正しい数値なのか”をモニタリングする機能が無いからです。多くの安価なベルトドライブ式プレーヤーも同じだと思います。ほかにもベルトの劣化などでも回転数に狂いが出てしまいますね。

それに対し、同じベルトドライブでもDP-400の場合はシャフトの下に速度センサーがついていて、回転数をモニタリングしていて、その情報をモーターにフィードバックしていて、必要なら回転数をサーボする機能もついています。

ベルトドライブ方式の場合、長期間使っているとどうしても回転数に狂いが出てしまうものですが、DP-400ではその問題を解決したかったので、速度センサーを取り付けました。

この解決法もメーカーによってさまざまで、モーターにセンサーを付けているメーカーもありますが、DP-400の場合はプラッターの回転をモニタリングする機械的な仕組みを設けています。

ちなみに、デノンは昔からダイレクトドライブ方式を最上位モデルに採用しています。これは、もともとが業務用機器メーカーだったからです。業務機器の場合、信頼性という面も含めて、電気的に制御したかった。自動化するにしても、ダイレクトにモーターを制御するほうが楽ですから。

岡芹先生によれば、ラジオなどの放送局で使われるプレーヤーとしてデノンは99.9%のシェアを持っていたという。次の曲の頭出しのために、レコードに針を落としておいて、再生スイッチを押したらすぐに再生できるダイレクトドライブが支持されたことが、現在も最上位モデルにダイレクトドライブ方式を採用している所以だという。

アームのカタチにも違いがある

次に、先端にカートリッジを取り付ける棒状のパーツ「トーンアーム」と、その先端にある「ヘッドシェル」を見ていこう。ちなみに、先端のヘッドシェルに「カートリッジ」が装着されているのだが、カートリッジについては後ほど教えてもらう。

まずはトーンアームから。「単純な棒じゃないの?」と思っていたが、大間違い。製品やメーカーによって形状が異なるという。デノンの場合もDP-3000NEやDP-400はS字に曲がったトーンアームを、DP-300FやDP-29Fなどはストレート形状のトーンアームを採用している。

岡芹先生によれば「ストレート型とS字型で、性能的にどちらが優れている、ということはありません。ただ、汎用性という面ではS字型のほうが利点が多い」という。

ストレート型のトームアーム

岡芹:端的に言えば、ストレート型トーンアームの場合、カートリッジを取り付ける板のようなパーツ「ヘッドシェル」が限定されてしまうのです。

トーンアームの形状はストレート型、S字型のほかに、J字型などもありますが、大事なのはカートリッジの針先から見た角度。針先はレコード盤という円盤の上を外周から内側に向かって進んでいきますが、針先に角度がついていないと、針先が外側にあるときと内側にあるときで、レコード盤の溝に針先が当たる角度に違いが出てしまいます。

この問題を解消するためにカートリッジに角度をつけていて、これを「オフセット角」と呼んでいます。このオフセット角をどうつけるかによって、ストレート型、S字型、J字型といったトーンアームの形状が生まれました。

ストレート型のトームアームの場合、ヘッドシェルには角度がついている

ストレート型の場合、トーンアームがまっすぐなので、オフセット角はヘッドシェルで付ける必要があり、そのプレーヤーにあった角度がついている専用のヘッドシェルしか使えません。

S字型のトームアーム

それに対し、S字型などの場合は、トーンアーム側にオフセット角が設けられているので、より幅広いヘッドシェルを使用できます。レコードはカートリッジだけでなく、シェルを変えるだけでも音が変化するものなので、こだわりが出るポイントです。

S字型のトームアームの場合、ユニバーサルタイプのヘッドシェルを使用できる

ヘッドシェルが取り外し可能になっているアームは「ユニバーサルアーム」と呼ぶそうだ。例えば、S字型のユニバーサルアームの場合、最初から付属していたシェルを、取り外して、他のものに付け替える時に、様々な種類から選択できる。

しかし、ストレートのユニバーサルアームの場合は、シェルに角度がついていないといけないので、対応する角度つきのシェルから選ばねばならず、選択肢が少なくなるわけだ。

カートリッジには種類がある

シェルの内側に取り付けられたカートリッジ

ヘッドシェルの先端に取り付けられるカートリッジは、先端に針が取り付けられており、これがレコードの溝をなぞって振動することで電圧が生まれ、これがアンプとスピーカーへと伝送されて音が出る。カートリッジには代表的な種類として「MC型」と「MM型」があり、これは電圧の生み出し方に違いがあるという。

岡芹:そもそも電気はコイルのなかで磁石が動く、あるいは磁石のなかでコイルが動くことで作られます。

MCは「ムービングコイル」の略で、針の反対側にコイルが巻かれていて、それを囲むようにマグネットが置かれています。そしてレコードに刻まれた溝に沿って針が動くと、磁界のなかでコイルが揺れますよね。それによって発電されるのです。

もうひとつのMMは「ムービングマグネット」の略で、こちらは針の反対側に磁石が配されていて、その周囲にコイルが巻かれています。そして針に合わせてマグネットが動くことで発電されるのです。

よく「MC型のほうが音が繊細」と言われたりしますが、そういったことはあまり考えなくて良いと思います。デノンの場合、MC型カートリッジの「DL-103」というレジェントモデルがあるので、“デノンマン”としてはMC型を推したいですが、基本的な設計の仕方や振動系の考え方などで音は変わりますので、トータルで好みかどうかを判断して良いと思います。

一般的にアナログプレーヤーに多く付属しているのはMM型カートリッジです。理由としてはMM型は量産しやすいこと、MC型よりも(製造時の)手間がかからないんです。そうは言っても作るのは大変なんですけどね。

またMC型とMM型では電気インピーダンスに違いがあります。MM型のほうがコイルをより多く巻けるので、電気抵抗が大きくなるので、出力信号(出力電圧)は大きくなります。

MC型の場合は磁界のなかで動く部分にコイルが巻いてあるため、コイルを多く巻くことはできないので、電気抵抗は少なくなり、出力信号も小さくなります。

ちなみに、針先というのはどんどん進化していて、大きさもカートリッジによって違います。また、レコードに掘られている溝の幅はおおよそ50ミクロン程度。つまり、そこに“山”と呼べる部分は数ミクロンしかないわけです。

そして、音の歪みはデジタルよりも、アナログの方がもっと大きく、そこから音を作っているわけですから、なにをやってもアナログは音が変わってしまうのです。

そしてもうひとつ、レコードを聴く上で欠かせないものが「フォノイコライザー」だ。これはレコードを再生する際、正確な音で再生するために必要な機能だという。

岡芹:そもそもアナログレコードは、盤面に掘られた溝に音が記録されています。ただ、低音や大きな音は振幅が大きいので、そのまま記録すると、隣の溝に当たってしまったり、針が溝から飛び出してしまいます。こういった問題を避けるため、低音はあらかじめ音量を下げて記録されています。

また高音は振幅が小さいので、盤面自体のうねりといったノイズと混じってしまうことがある。それを防ぐため、高音は音量を上げて記録されています。これは世界共通の「RIAAカーブ」という規格に則っています。

そうやって記録された音が元の状態に戻るようにイコライジングするのがフォノイコライザー。つまり“低音を大きくし、高音を小さくする”ことで、本来の音を復元しているのです。

またレコードの出力はCDプレーヤーなどと比べても数百分の1程度なので、十分な出力レベルまで増幅する役割も担っています。イコライザーというのは特色が出るところですね。イコライジングアンプというのは小さな信号をどんどん大きくしなくてはならないので、回路としては一番大事な要素。大元であるレコード盤にもっとも近い“入り口”にある回路なので、音に大きく影響します。

フォノイコライザーアンプは単品でも存在しますが、レコードプレーヤーにあらかじめ内蔵していたり、アンプ側に内蔵しているものもあります。

例えば、フォノイコライザー内蔵のレコードプレーヤーと、フォノイコライザー内蔵のアンプを組み合わせる場合、プレーヤー側のPHONO出力と、アンプ側のPHONO入力を接続しないよう注意してください。そうしないと2重アンプのようになって低音が“ボッカンボッカン”になってしまいますから(笑)。

さらに先程説明したように、MC型カートリッジとMM型カートリッジでは出力信号の強さに違いがあるので、それぞれにあったフォノイコライザーが必要になります。例えばDP-400やDP-300FはMM型カートリッジに対応したフォノイコライザーが内蔵されているので、もしMC型カートリッジを使いたいと思ったら、内蔵フォノイコライザーではなく、MC型に対応したフォノイコライザーを備えているアンプなどを使う必要があります。

簡単再生の「フルオート」とアナログらしい体験ができる「マニュアル」

岡芹先生の説明を聞きながら、デノンのレコードプレーヤーラインナップを見ていると、「マニュアルプレーヤー」と「フルオートプレーヤー」に製品が分かれていることにも気がついた。

岡芹:フルオートプレーヤーは、その名のとおり再生から停止まで全自動で行なわれるプレーヤーです。実際にフルオートプレーヤーであるDP-300Fを見ていただくと、筐体にスタート/ストップボタンが付いているのが分かると思います。フルオートプレーヤーでは、このボタンを押すと、自動でトーンアームが上がって、レコード盤の上まで移動して、レコードに針が落ちて音楽の再生が始まります。

再生が終わって、針がリードアウト(刻まれている溝の端)まで行くと、トーンアームが自動的に上がって、元の位置に戻る。こういった動作がすべて自動で行なわれるのがフルオートプレーヤーです。トーンアームを触る必要は一切なく、ボタンを押すだけで再生できるわけです。スタートボタンを押せばレコード盤も自動で回り始めます。

フルオート機構

フルオート機構の仕組みはいろいろありますが、DP-300やDP-29Fの場合、メカロジックが組み込まれていて、リードアウトまで行ったこともメカ的に検知しています。

それに対してDP-400のようなマニュアルプレーヤーでは、トーンアームを上げて、レコード盤に落とすといった操作をすべて手動で行ないます。再生が終わった後にトーンアームを持ち上げるのも手動です。DP-400の場合、トームアームを安全に上げ下げできるアームリフターという部品もついています。

これだけ聞くと、すべて再生/停止が自動で行なわれるフルオートプレーヤーのほうが便利に思えるが、音質という観点では、フルオートプレーヤーの場合、必要な機構をキャビネットに組み込まなくてはいけないため、どうしても音質だけを追求するわけにはいかないという。

岡芹:フルオートプレーヤーの場合、(マニュアルプレーヤーと比べて)部品点数が多くなります。フルオートの機構を組み込まなくてはいけませんから。そうなると、当然キャビネットも含めた全体の設計も、フルオート機構を入れるスペースを設けなければいけない。つまり、音を良くするといった取り組みのための“遊び”がない。フルオート機構のためのキャビネットになってしまうのです。キャビネットの剛性にも違いが出ますね。

フルオート機構の入ったDP-300F(上)とマニュアルプレーヤー「DP-400」のキャビネット。フルオート機構がない分、DP-400のほうがシンプルで、指で叩いてみても剛性感がある

DP-300Fの場合、フルオート機構は良くできているのですが、マニュアルプレーヤーであるDP-400と聴き比べると「やっぱり音は違うな」と感じると思います。

ちなみに、DP-400はマニュアルプレーヤーですが、「オートリフトアップ&ストップ機能」というものが搭載されていて、レコードの再生が終わったら自動的にトーンアームが上がってターンテーブルの回転も止まります。例えばレコードを聞きながら“寝落ち”してしまっても、レコードやカートリッジを傷めずに済む便利な機能ですよ。

メカニズムだけ考えれば、例えばCDの場合、メカがダメだとそもそも音が出ません。それに対して、アナログプレーヤーの場合はメカがダメでも、極端な表現をすれば“いい加減”に作っても音は出てしまいます。だからこそ、アナログプレーヤーは物理的にしっかり作るというのが大事です。

実際にデノンのフルオートプレーヤー「DP-200USB」とマニュアルプレーヤー「DP-400」を見比べてみると、DP-200USBのターンテーブル下にはフルオート機構のギヤなどが設置されており、そういった機構を収めるための空間が確保されているのに対し、DP-400のターンテーブル下はそういったパーツ、空間は一切なく、触ってみると剛性の違いがわかる。

また岡芹先生は、アナログプレーヤーはレコード盤に刻まれた溝を針がなぞって振動することで音を作り出しているため、それ以外の振動を吸収・抑制するダンピング(制振)構造も重要な要素だと説明する。

デノンの場合、DP-300Fなどリーズナブルなモデルでも筐体を押すと沈み込むダンピング機構が搭載されている

岡芹:アナログプレーヤーにとって振動は一番の大敵。ハイエンドモデルには及ばないにせよ、リーズナブルなモデルでも足回りはしっかりさせておく必要があります。少なくともダンピングだけはさせておかないといけませんね。

いざレコード再生。サブスクとの音の違いは?

なるほど、レコードプレーヤーの構造や用語は理解できた。では、実践としてレコードを再生してみよう。

再生に使ったプレーヤーはDP-400、アンプはオールインワン・ネットワークCDレシーバー「RCD-N12」、スピーカーにはDALIの「OBERON 1」を用意した。

試聴したのは、以前購入していた「宇多田ヒカル/One Last Kiss」のレコード盤。今回はアンプにRCD-N12を使っているので、Amazon Musicで同じ楽曲をストリーミングして、音質の違いも体験してみた。

トーンアームの調整についてレクチャーを受ける筆者

DP-400を平らな机に置いたら、まずは針圧の調整から。レコード針がレコードの溝をなぞって音を拾うためには、針先からレコードに対しての一定の圧力(針圧)を掛ける必要があり、その強さもカートリッジごとに適正値が決まっている。DP-400に付属しているカートリッジ「DSN-85」の場合、適正針圧は2.0gなので、この数値に合わせなければならない。

カウンターウエイト
カウンターウエイトを回して針圧を調整する

調整するには、まずトーンアームを持ち上げてターンテーブルの上まで移動させる。その後、トーンアームとターンテーブルが平行になるように、アーム根本のカウンターウエイトを回して調整する。

トーンアームとターンテーブルが平行になったら、一度トーンアームを戻して固定。カウンターウエイトが動かないように押さえながら、ウエイトの根本にある「針圧調整リング」の“0”の目盛りを、トーンアームの線と合わせる。最後に針圧調整リングの目盛りが“2”になるまで、リングごとカウンターウエイトを回転させる。

ボタンひとつですぐに再生できる音楽サブスクと比べると、手順が多くて面倒に感じるが、実際にやってみると「これから音楽に浸るぞ」という気分を高める行為のようにも感じられた。

針圧の調整が済んだあとは、アンプやスピーカー、電源との接続などを済ませて、ついにレコードをプレーヤーにセット。トーンアームを持ち上げて、そっと盤面に下ろすと「ブツッブツッ」というノイズのあとに、音楽の再生が始まった。

「One Last Kiss」は宇多田ヒカルの歌声も含め、全体的に解像感が高く、キレ味のある印象の一曲だが、レコードで聴く宇多田の歌声には、配信などではあまり感じられなかった艶やかさがある。なんというか音が“濃く”、全体的にウォームな印象だ。同じ曲を配信で聴くと、解像度は高いのだが、なんだか“薄味”に聴こえてしまう。こ、これがアナログレコードの魅力か!

針圧を調整したり、レコード盤をセットしたり、自分で針を盤面に落としたりと、レコードで味わう体験は、ふだんサブスクなどで味わっている体験とはまったく違うもので、手間がかかるらかこそ「じっくり腰を据えて音楽の世界に浸りたい」と思うようなひと時だった。

レコードプレーヤーについても、当初は再生/停止が自動で行なわれるフルオートプレーヤーのほうが便利だと感じていたのだが、自分で盤面に針を落とす体験や、カートリッジ交換などのカスタマイズ性、また長期間使っていても安心な機構などを踏まえると、DP-300FやDP-29Fといったフルオートプレーヤーよりも、少し奮発してDP-400のようなマニュアルプレーヤーを導入したほうが、よりどっぷりと“レコード沼”に浸れるように感じられた。

酒井隆文